大学のファッション文化史の講義で、靴作り&靴デザインのエキスパートをお招きしてスペシャルトークセッションをおこなう。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演経験のある、オーダーメード靴界の第一人者、「ギルド」の山口千尋さんと、「JILAレザーグッズデザインアワード」グランプリ受賞の気鋭のデザイナー、串野真也さん。串野さんは京都から。
山口さんは5000年前の靴の話に始まり、革のすぐれた特性、人間の足の構造、靴と足の不思議な関係など、基本的な事柄に見えて案外知らない靴のお話を丁寧に解説。「足の形のまま靴を作ると、実はゆるい」という意外な事実。人間の足には56個もの骨があること。「履くときにはすっと抵抗なく履けなくてはいけないが、いったん履いてしまうと脱げては困る」というパンプスの不思議。「自分に合った一足」を見つけることの大切さを学ぶ。写真はオーダーメイドのブーツを手に講義する山口さん。
串野さんは、非日常的なファンタスティックな靴やバッグなどを作り続ける。「ソマルタ」と2010-11秋冬コレクションでコラボレーションして話題になったことも記憶に新しい。伊勢海老にヒントを得た(!)という羊をイメージした靴や、
「ジンガロ」を見て風のように駆け抜ける馬をイメージしたという、ヒールのない靴(!)や、
ギリシア神話のキメラからインスピレーションを得たという靴の数々は、靴というよりアートピース。作品の実物を手に取りながらのお話は、説得力あり。上の「ヒールのない」靴を、わたくし、実際に履かせていただきました! 土踏まずでしっかりと安定し、ちゃんと歩けることに驚く。
下の写真は、大量生産や模倣は不可能な、世界にたったひとつの靴を作り続けたい、という思いを熱く語る串野さん。
串野さんの新作、ピーコックにも驚き。テキスタイルデザイナー、今井美沙さんが創る、デザインにあったオリジナルのテキスタイルが使われている。孔雀の羽やヒールにぱっと目を奪われるが、よく見ると、地模様のテキスタイルによって、幻想的な孔雀ワールドがより強化されている。
地に足をつけてしっかりと現実世界を歩くための靴を作る山口さんと、現実を超える夢を見せてくれるシュールで美しい靴を作る串野さん。一見、対極の態度に見えるが、ふたりのお話から、相通じる志の高さを感じとる。大量生産、大量消費に異を唱え、世界にたった一つの、コピーなんてできない(無意味な)オリジナルな靴を極めようとしていること。
現実生活も、追い求める夢も、とりかえのきく大量生産品だったり誰かの安易なコピーだったりしたらつまらないよね、と深く共感。
学生からの質問にも丁寧に答えていただく。左から串野さん、山口さん。
「新しく、誰も見たことのない斬新なものを作るべきクリエイターにとって、歴史を学ぶことはかえって邪魔になるのではないか? 歴史を学ぶことの意義は?」という質問あり。それに対する山口さんの答え―「人間は5000年前から靴を作り続けていて、その5000年の間に、人間が考えうるありとあらゆることはだいたい行われつくしている。その長い年月の最後というか最先端のラインに私たちがいる。歴史を知ってこそ、何が新しくて新しくないのかということもわかる」。
歴史は、不動のものとしてあるのではなく、その「最先端」にいる私たちの見方次第でさまざまな顔を見せてくれる。そんな歴史の面白さも伝えて続けているつもりの講義だったので、現場のクリエイターからの説得力あるお話として感激。
山口千尋さん、串野真也さん、ありがとうございました! 企画実現のために奔走してくれた、元ゼミ生の大橋君にも感謝。
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