6月10日に90歳の誕生日を迎えたエディンバラ公フィリップ(エリザベス女王の夫君)。そのスーツスタイルをたたえる記事が、英ファイナンシャルタイムズに。6月3日付、Regally restrained. 記者はマンセル・フレッチャー。
女王と結婚後、60年間の間、「公人」として人前に出てきたフィリップ殿下だが、その外見がなにか批評の対象になったことは、一切なかった。慎み深く、謹厳で、威厳もある。理想的なビジネススーツのモデルとなり続けてきた。シングルのグレーか紺のスーツ、白か淡いブルーのシャツ、シルクのタイと黒い靴、唯一の「装飾」がきりっと折りたたまれた白いポケットスクエア。
完璧に抑制のきいたユニフォームでなんの批判も受けない、ということで、このスタイルは現政治家にも継承されている。デイヴィッド・キャメロン、バラク・オバマ、トニー・ブレア、ニック・クレッグはみな同様のスタイル。サヴィル・ロウのテイラー組合のチェアマン、マーク・ヘンダーソンはこのようにコメント、「フィリップ殿下の装い方には、最高にすばらしい、目立たぬ賢さがある(There is the most wonderful low-key smartness about the way he dresses)」。
殿下のスーツを少なくともここ45年間つくっているのは、Kent, Haste & Lachter のジョン・ケント。1960年代に、ケントがHowes & Curtis にアンダーカッターとして加わり、殿下のトラウザーズをつくったことからご縁が始まる。1986年にケントが独立したあとも殿下のテイラーであり続け、昨年、ケントが現在の会社をはじめたときにはすぐにロイヤルワラントを取得した。殿下の好みは渋め。「シングルのジャケット、フロントは2つボタン、カフスは4つボタン。ベントなし。ポケットにもフラップなしで玉縁かがりのみ。トラウザーズはクラシックでプリーツはあってもバギーなし」。
この40年間の間、メンズファッションは激動期でもあった。ロックンロール、ヒッピーカルチュア、ニューロマンティックを経てヒップホップへという流れがあった。スーツにおいても、アルマーニによる「デコンストラクション」があり、ヨウジ・ヤマモトによる再構成があり、ヘルムート・ラングやエディ・スリマンによる革新を経て、トム・フォードによる70年代風ルネサンスがあった。こうしたあれこれの騒動を横目に、殿下のスタイルで変わったところといえば、トラウザーズのカットをスリムダウンしたことと、ラペルを少し長くしたことだけ。
こうしたパパの厳格さを見て育った長男のチャールズ皇太子は、ちょっとダンディ入っている。ソフトショルダーのダブルを好み、ポケットチーフもカラフルだしパフって入れたりしている。この父子関係は、オーソドックスを好んだジョージ5世の好みに反して、ど派手なスタイルセッターになってしまったウィンザー公との関係を思わせる。
「殿下はカジュアルをお召しになることがあるのか?」という質問に対し、彼のテイラーはちょっと間をおいて、ドライに答える。「熱帯にお出かけになるときには、軽量のコットンスーツをおつくりしました」。
マーク・ヘンダーソンの締め、「多くの点で、殿下は典型的なブリティッシュ・ジェントルマンであり、スタイルは永遠であるということを私たちに思い出させてくれる」。
……以上が記事のおおざっぱな概要。ジェントルマン気質とダンディ気質は、常にささやかに対立しつつ共存していくものであること、あらためて感じ、にやっとさせられる。殿下のような典型的なブリティッシュ・ジェントルマンがかたくなに「模範」を示し続けてくれるからこそ、アンチテーゼとしてのメンズファッションがおもしろくなってくるのだ。フィリップ殿下、90歳のお誕生部おめでとうございます!
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