加賀乙彦『科学と宗教と死』(集英社新書)。難しそうなタイトルだけど、やさしく語るように書いてある。著者、80歳を超えている。

身近に死を何度も経験した加賀さんの個人的な思いの部分も興味深かったが、もっとも示唆に富んでいたのが、死刑と人間心理。死刑囚と、無期囚とはぜんぜん「症状」が違ってくるという指摘。

死刑囚は、反応性の躁状態になる。しゃべったり冗談をとばしたり、笑い歌い騒々しく興奮しやすく暴れまわる。

「古くから、罪人が処刑寸前の引き回しのときに笑ったり歌ったりする様子を『引かれ者の小唄』と言いましたが、まさにその状態です。『引かれ者の小唄』は、死を前にわざと平気をよそおうこととされてきましたが、私の観察では『わざと』している行為ではないと思います」

無期囚には、「プリゾニゼーション」すなわち「刑務所ぼけ」がおきる。感情を麻痺させ、無感動になり、刑務所の生活に適応する。「退屈というものを感じなくなるほど鈍感になる」。

「死刑囚は常に『いつ殺されるか』という興奮状態にありますが、無機囚は全然別の人間になってしまう」。

死刑囚は濃密な時間を生き、生のエネルギーを発散させざるをえない。無期囚は無限に薄い時間を生きざるをえない。

どっちが残酷なんだろうか。

という狭い枠の問題を超えて、塀の外にいる人間にとっても、死をどれだけ強く意識するかによって、生の濃度が変わってくる…という示唆を、かみしめる。

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