まとめ買いしておいた樋口毅宏本の最後の一冊。扇情的なタイトルだが、真正面から「愛を求める人々」の哀しさといとおしさを描いている。冒頭はノリノリのポルノグラフィー、しかもカンダウリズム(Candaulism)という、愛する女性をほかの男に委ねることで快楽を得られるという特殊な性的嗜好をもった人たちの饗宴描写から。次第にそれが樋口さんお得意のグロさ極限の血も凍るバイオレンスの世界となり、その後、展開ががらりと変わってシリアスな裁判で彼らの「自由な愛」がきわめて「日本人的に」裁かれていく。「自分を棚に上げて他人を断罪」するとなるとヒステリックなまでにモラルを振りかざす日本人の醜い小市民ぶりの描写がドライで笑える。さらに裁判のあと、二転三転する「裏の真実」が判明していき…とこのあたりはミステリーの謎解きタッチ。人物がすべて、互いのパートナーに見せる顔とは別の面を、別の人に対しては見せていく。一人十色。愛の求め方も、誰も素直ではなくて、自分と最愛の人に誠実であればあろうとするほど、ゆがんだり社会的に裁かれたりする方向に行ってしまう。

恒例の、映画や音楽に対するマニアックなオタク語りもちりばめられ、次はなんだどうなる?と飽きさせずに一気に読ませる。破綻しているところや中途半端感でくすぶる箇所もあるけれど、B級感をきわめつつあらゆる要素をつめこんで限界に挑もうとした野心を評価したいかな。この人の文章はやっぱり神経のぎりぎり限界を試すような劇画的暴力描写をしているときが、いちばん生き生きしている。

カンダウリズム、という専門用語をはじめて知ったのだが。ポルシェが好きすぎて、自分で運転するとその姿が見られないので友人に運転してもらい、走る姿の全容を外から眺めることで満足する、というメンタリティと似ている、というような解説が本書のなかにあって、ああなるほど、と納得。人の心はどこまでもややこしくて奥深い。

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