安い服を買っては捨てる、チャリティと称して要らない服をどこかに送る、なんてということを繰り返して平然としている人にはぜひとも観てほしい問題作。「ザ・トゥルー・コスト」

true cost

ファストファッションが台頭してくる1997年くらいから、デザイナーに代わってクリエイティブディレクターなるものが活躍しはじめ、巨大資本によるブランド買収戦争が激化し、明らかにファッションのシステムが変わった。ファッションのシステムだけならいいけれど、それをいかに安く作り、いかに儲けるかという欲望が肥大化して、地球規模で、人類を破滅させかねない惨事が起きている。それを生々しく告発していく力作である。

世界の6人に1人がファッション産業に従事している。そんなファッション産業は、いま、石油産業に次いで地球を汚染している産業である。華やかな産業を支えるために地球各地で起きている悲劇を描く衝撃のドキュメンタリーは、ホラーかブラックなSFかと見まがう、真実の記録。編集もたくみで、ファッション産業の裏側、消費者の行動、選択肢がないので命をかけても働かざるをえない人、資本家の論理、犠牲者、偽善者を交互にテンポよく見せていき、ぐいぐいと引きこまれる。

バングラディッシュの縫製工場の崩壊は記憶に生々しいが、スウェットショップの問題だけではない。原材料の生産地にも深刻な問題が起きている。大量の綿を生み出すために遺伝子組み換えの種子を使い、大量の農薬を散布しているパンジャブ地方ではなにが起きているのか。化学染料で染色をする地方では川がどういうことになっているのか。障害をもつ子供、がん、奇形など人体への影響が顕著となり、医療費も払えない弱い立場の人々は死を待つのみ。種子や農薬の代金も払えなくなった農業従事者は農薬を飲んで自殺する…。

捨てられた、あるいは「寄付」された安価な服は、ぺぺに送られるけれど、古着屋ですら売れない大量の安い服は処分しきれないごみの山となり、化学染料が使われているので大気も土地も汚染するばかりか、もともと地元にあった縫製産業も廃れさせていき、人々から仕事を奪う… どこが「チャリティ」なのか。

カンボジアでは最低限の生活ができる賃金を求めて人々がデモをおこなうけれど、工場を誘致したい政府がそれを暴力で鎮圧し、死人が出ている… ただただ、人間としての最低限の生活をしたいというだけなのに。

先進国で、人々が気軽に買いあさり、気軽に捨てたり「寄付」したりする服は、「わたしたちの血でできています。血でできた服なんてだれにも着てほしくない」と涙とともに訴える女性。

ファストファッションだけではない。

数字だけを追いかけて、人の犠牲をかえりみないツケを払うのは、自分たちの子供世代だ。いや、このスピードを思えば、もう自分たち自身だ。地球の裏側で起きている環境破壊や惨事と、渋谷や原宿で売られるファッショングッズはすべてつながっている。

「服を着る」一人でも多くの人に観て、考えてほしい、資本家のみなさまには行動を起こすきっかけにしてほしい映画です。

 

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