80歳を超えてますます快進撃が続く行方昭夫先生の新著。『英文読書術 イギリスエッセイ編』(DHC)。

ルーカス、ミルン、ガードナー、リンドという4人の短編エッセイの名手の作品から選ばれた8編。

左から読むと、抽象度も高い、レベルの高い英文をどのように解釈していくかという英文解釈のレッスンになる。

右から読むと、日本語訳と行方先生による解説が楽しめる。

さらっと生活の一こまを切り取ったような短編ながら、イギリス人らしいねちねちとしたイジワルな心理描写や応酬がたまらなく面白い。

とりわけ笑ったのが、ルーカスの『私の著書、本当に読んだかね?(The Test)』。これ、本を恵贈されたり、また献本したりしたことのある人にはとりわけ痛快に読めるのではないか。ほめことばを連ねてあっても、実際、読んでないだろうと思われることが多いし、まあ、みんな多忙だからそんなもんだと思うので責めないけど、こうして作品としてねちねちとここまでやるかというのを示されると、もう爆笑するしかない。

解説によれば、1987年にアメリカの書店の店主が実際に実験をおこなったことがあったそうです。あるベストセラーの50ページめに「ここまで読まれたことに敬意を表して、この紙片と引き換えに本の代金を返却します」という紙片をはさんでおいた。ところが、ひとりも申し出がなかったそうよ。笑

現代だといっそうスマホにつかっている時間が長いので、本を通読する人なんてますます少ないのだろうな。

 

もう一作、私のツボにはまったのが、やはりルーカスの『N一文字の悲劇(The Letter N)』。banker と baker。「n」の一字が抜けたために起こる、とんでもない大騒動。浮かび上がる階級意識やら妙なプライドやらの応酬で最後はカタストロフに。当事者は災難だろうけれど、もう爆笑。すみません。

 

ほかの短編もピリッとスパイスが効いて、人間の本音というのは時代が変わろうが人種や国が変わろうが、それほど違わないのだということを教えてくれる。

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