朝日新聞6月28日求人欄、「仕事力」。猪子寿之さま第4回め。『「美意識」を次へ進めるよ』。
「例えば米国の芸術家のアンディ・ウォーホルは、女優マリリン・モンローなどの一枚の写真を様々に加工して、大量生産でもカッコいいよ、と時代の価値観を変えたよね。キャンベルのスープ缶もウォーホルの手によって堂々と表現になった。それは、当時のお金のない人が買うような安い大量製品でもカッコいいと、アートが時代の概念を変えたから。ほら現代では、個人用の仕立て服より、大量に出回る既製服の方がお気に入りのほとんどを占めるようになったというように、『美意識』は進むんです」
「誰もが、こんな社会になったらいいなというビジョンを直感的に持っていると思うのですね。パワーで動いてきた20世紀とは違う、新たな社会を求めているでしょう。その実現のために『美』の用い方を工夫し、泥臭く武器として取り入れていけば、ビジネスでも長期的な競争力になるはずです。なぜなら人間は、美しいもの、カッコいいもの、面白いものが大好きだから」
ファッションの歴史って、その具体例の宝庫ですね。歴史に残るファッションデザイナーのリストとはすなわち、社会の価値観を変え、新しい人間像をプレゼンテーションすることに成功した人のリスト。トレンドにあわせたきれいな服を作ってる人じゃないんです。
ただ、天才デザイナーの場合、社会変革を目指したというよりもむしろ、美しいと思うものを孤独に追求していったら、結果として社会が変わっちゃったということのほうが多い。結果としてそうなってしまう、という。
サンローランも、黒人モデルを起用することで多文化社会を後押ししたが、それは決して、政治的な配慮ゆえではなかった。「黒人は挑発的でセクシー。僕の服を着せたい」というピュアな動機でランウェイを歩かせた。結果として、サンローランの服をまとった黒人の美しさに人々は感動し、時代が「多文化社会」へと進んでいったのである。
多くの「成功物語」は、往々にしてそうですね。なにかをピュアに追っていった結果、社会のほうが変わっていく。結果としてそうなってしまう。かけひきや戦略ではなく。そのあたりをはきちがえると、永久に「自己啓発病」サイクルから抜け出せない。
猪子さんも在学中から「チームラボ」を立ち上げてるんですね。エネルギーがあってなにかを成し遂げようとする人は、19とか20からすでに「行動」している場合が圧倒的に多い。