◇「ココ・アヴァン・シャネル」の試写@ワーナー・ブラザーズ。アンヌ・フォンテーヌという女性監督による映画で、シャネル役はオドレイ・トトゥ。孤児院時代~キャバレーでの歌手時代~最初の愛人バルサンの城での「囲われ(居候?)」時代~最初の恋人カペルとの出会いと死別~デザイナーとしての名声を勝ち取るまで、という「デザイナー、ココ・シャネルが誕生する以前」が描かれる。

オドレイ・トトゥの、引き込まれるような黒い瞳を生かした表情がすばらしく、最後はほんとうにシャネルの肖像写真とぴたり重なるように見えた。

20世紀初頭のファッションが驚くほどきめこまかく再現されていて、カメラもアクセサリーやレース、襟やタイやカフスのディテールまでねっとりとアップで写していく。有名な「らせん階段」のショウで使われたシャネルのドレスも美しく、衣裳・美術だけでも眼福ものである。

でもさすがはフランス映画というか。ファッションにさほど関心のない観客にとっても、シャネルとバルサンとカペルの野蛮にして優雅な三角関係は、見ごたえあるドラマとして映るだろう。友人バルサンからその愛人シャネルを「二日間借りる」というエレガントな申し出をしてイヤミではないカペルにはぶっとぶし、それを嫉妬しながらも許し見守るバルサンもわけがわからない(←ホメ)。二人の男の間で、スムーズに愛人の受け渡しが成り立ってしまう過程が、実はもっとも興味深かった。上品に淡々と描かれながらも(それゆえに)、3人それぞれが秘めた心の奥の荒々しい熱情が目に見えるようだった。他の国の映画ではなかなかこんな描き方はできないのではないか。

バルサンがたびたび、労働への軽蔑を口にする。シャネル以前は、ファッションは「労働とは無縁な」有閑階級のものであったのだ、とあらためて認識する。そういうサークルの中にありながら、労働労働、ひたすら労働によって身を立て、名をなし、ゴージャスな恋愛遍歴を重ねたシャネルは、どれほどの意志と魅力の持ち主であったろうか。

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