林真理子『グラビアの夜』(集英社文庫)読み終える。「一流ではない」仕事現場で、それなりにあがいたり、日々をしのいだりしているスタッフたちのそれぞれの物語が、生々しいリアリティで描かれる。大きな山場があるわけでもなく、感情がドラマティックにゆさぶられるわけでもなく、けっして読後はすかっと快いわけではない。でも、まさにそのテンション低めの殺伐とした感覚こそ、作者が狙った効果であるようだ。

巻末の瀧井朝世さんの解説が、そのあたりのもやもや感をうまく表現していた。<上昇志向がなく、熱情もないけれど、現実に穏やかに満足しているという現代人の姿勢を浮かび上がらせている>と。以下、瀧井さんの解説から。

「トップを極めるというのは、かなり面倒くさいものだと分かってきたこと。(中略)栄華を極めた人間は、賞賛や憧れの対象というより、足元をすくうターゲットとなっている」

「トップがすぐ入れ替わる時代なのである。芸能界も経済界も政界も、いちばん上に行き着いたら、後はひとつでも失敗したら奈落の底まで落ちるだけ。しかも、どこに落とし穴があるか分らない」

「一流でなくても、いい暮らしはできる。(中略)ヘタに出る杭になって打たれてすべてを失うよりも、地味だけれども使い勝手のいい人間のままでいたほうが、同じ世界で息長くやっていけそうな気もする」

タイトルのことばも、瀧井解説より。こういう時代においては、「上を目指す」ことがばからしく、そこそこのところでささやかに満足を覚えながらやっていければそれもまたいいではないか、というひとつの考え方。

そんな考え方が救いとなる人が大勢いる。そのような日本の現実に、どこかわりきれない思いも残る。

表面上は華やかで幸福そうな人々ばかりに見えるモード界であるが、その中で働く人々の心の闇を考えざるをえない事件もときどき起きる。

メンズのミラノコレクション真っ最中の18日に、「バーバリー・プローサムの顔」として活躍してきたモデル、トム・ニコンが飛び降り自殺した、という記事。英「ガーディアン」21日付。22日には「インデペンデント」も同様の報道。

トム・ニコンはまだ22歳。ルイ・ヴィトン、バーバリー、ヒューゴ・ボスなどのモデルをつとめており、ヴェルサーチェのリハーサルから帰った直後、アパートの4階から飛び降りた。最近、ガールフレンドと別れており、それによる鬱が原因では、とのミラノ警察の報告。

ニコンばかりではない。以下、「ガーディアン」が報じた、最近のモード界における自殺および自殺未遂者。

先月にはマークス&スペンサーのモデル、ノエミー・ルノワール(30)がパリで自殺未遂。昨年11月には韓国のモデル、ダウル・キム(20)が首をつった。今年4月にはアメリカのモデル、アンブローズ・オルセン(24)が死亡。2月のアレクサンダー・マックイーンの自殺も記憶に生々しい。

4月にはコロンビアのモデル、リナ・マルランダが飛び降り自殺。2008年にはロシアのモデル、ルスラナ・コルシュノヴァがNYのアパートの9階から飛び降り自殺。

自殺する人はどの業界にもいて、プライベートな事情も多く関わってくるから、必ずしもモード業界の仕事によるストレスによるものと結びつけるわけにはいかない。でも、匿名のインサイダーのコメントから、モデルたちが受けるストレスの実態がうっすらと伝わってくる。

「オーディションに行くと、ディレクターたちが一目だけ見て、却下するんだ。その後ずっと、いったい自分のどこが悪かったのか、なぜ自分は仕事を得られなかったのか、と悩み続けることになる」

記事内に引用されていたジョルジオ・アルマーニの指摘が、重みをもって響いてくる。

「この業界はあまりにも若さを重視しすぎていて、22歳で人生が終わってしまうように思わせるのだ。私たちは、23歳以降もずっと人生は美しい、ということを若い人々に伝えなくてはいけない」

「絶望はどこにだってある。愛においても。でも、悲劇を招くことなしに、絶望と向かい合わなくてはならない」

帝王、アルマーニ75歳の言葉には力強い説得力がある。アルマーニはパートナーをエイズで失った後、絶望から立ち直り、独力で経営を学んで今の帝国を作り上げている。

死にたくなるような絶望と、悲劇なしに、向いあえ。きらびやかに見える業界だからこそ、求められるものも、厳しい。ニコンの冥福を祈る。

ロンドンのセントラル・セント・マーチンズといえば、ファッション界のトップで活躍する高レベルのデザイナーを数多く輩出してきた名門デザインスクールである。ジョン・ガリアーノ、故アレクサンダー・マックイーン、ステラ・マッカートニー、クレメンツ・リベイロもここの卒業生。 その名門校の2010年の卒業コレクションでは、アジアのデザイナーの活躍が顕著だったという。英「テレグラフ」9日付けの記事。「インデペンデント」も同様の報道。 アジア、すなわち韓国、中国である。10年前は、モード界で「オリエンタル」といえば日本であった。現在では韓国、中国がメインで、日本ではないのである。 韓国のRok Hwangは、セリーヌに入社することが決まり、同じく韓国のJung Sun Leeのコレクションは、ハロッズが購入。このふたりはMAコース。 BAのショウでは、中国のYi Fangがロレアル・プロフェッショナル賞を受賞。 アメリカではすでに、アレクサンダー・ワン、ジェイソン・ウー、フィリップ・リム、デレク・ラムなど、アジアのバックグラウンドをもつデザイナーがめざましい活躍で、21世紀のモードを牽引している。 日本のファッションは発信のしかたが違うから、と言われれば、まあそれまでなのだが、10年前と比べるとたしかに日本のデザイナーが話題にのぼることが少なくなっている感も否めず、やや、さびしい気もする。

◇日本のファッション誌と中国のファッション誌の提携を仲介するお仕事をなさっている王暁燕さんに、中国の詳しいファッション事情、雑誌事情をうかがう。

Ray, Classy, Vivi, Mina, Glamorous などの提携誌が中国でも売り上げ上位の雑誌に入っている。Rayは100万部近い売り上げを誇るそうである。薄くなる一方の日本のファッション誌とちがい、ブランドの広告がたっぷり入って電話帳のような厚さになっている雑誌も多い。「ハーリー族」という親日の若い人たちが、日本のアニメやファッションに夢中になっていることが背景にあるほか、急激にリッチになった人たちが、ブランド品やエステなどに湯水のようにお金を注ぎ込んでいるという生々しい事情があるようだ。

ブランド店で「ここからこここまで全部ください」という「お大名」な買い方をしたり、野菜を保存するような大きな麻袋に現金を入れて買い物をしたりするという新興リッチ層の話には驚くばかり。

日本で撮影をして100カット以上も撮り、日本のスタッフ(カメラマン、ヘアメイク、スタイリストなど)が「これがベスト!」と選んだ最高のショットを、中国側の編集者はおうおうにしてあまり採用しない、という話も興味深かった。洗練度が高すぎると、中国の消費者は、「自分との距離がありすぎる」と敬遠してしまうのだそうである。プロの目から見たらややランク低めの、手が届きそうな、親しみやすい感じ。これが今の中国では受け入れられるのだと。

西洋人の容姿はかけ離れているけど、日本人は同じアジア人ということで肌や髪の色も近く、身体のバランスも近い。そのこともあって日本のファッション、ヘアメイク情報は、西洋の雑誌情報以上に、熱い模倣の対象になっているらしい。

そんなこんなの興味深い中国のファッション事情を、小人数クラスの学生とともに、興味深くうかがった。重たい雑誌をたくさんもってきて真摯にお話くださった暁燕さん、ほんとうにありがとうございました! 現場に携わる方のお話は、説得力がありました。

写真は暁燕さんにいただいた、上海万博のおみやげ。シルクの巻き物に、書。なにが書いてあるのかわからないのだが(・・・)迫力あるビジュアル。

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◇同じアジアでも、韓国では水光(ムルグァン)メイクというものが流行している、と別の小人数クラスの学生の報告で知る。韓国のほうは、パールの下地を使い、肌はつくりこむけれども、ポイントメンクはティントでごく薄めにするというメイクが流行中で、日本のいわゆる「ナチュラルメイク」よりもかなり薄い印象。

このクラスの、韓国からの留学生は、日本のドラマと韓国のドラマの徹底比較も披露してくれた。韓国ではCMは最初と最後だけ、途中に入ることはないということ。60分ドラマが週二回(!)のペースで続いていき、スケールも大きいこと。戦隊レンジャーものが、韓国には存在しないこと。家族ドラマが多くて老人の俳優の登場場面が多いこと。視聴者の意見が重視され、脇役でも人気が出れば、その人を主役とするようにドラマが変わっていくこともあること、などなど興味は尽きなかった。

学生のリアルなレポートに、学ばせていただくこと大。感謝。

◇「ワイン王国」7月号、巻頭アペリティフで、エッセイを書いています。ペリエ・ジュエの会でのご縁つながり。ワインの話を活字で書くのはほとんどはじめてのことで、肩に力が入りすぎて(?)「このドシロウトは!」とあきれるようなハズカシイ話になってしまいましたが。機会がありましたら、寛大なお気持ちで、ご笑覧ください。

仕事も生活も、思ってもいなかった新しい世界に導いてくれるのは、ほかならぬ「ご縁」であるなあ、とあらためて実感。

◇「成城石井」にて恒例の、空クジなしのシャンパンくじ。3500円ほどの投資で、最低でもモエ。最高でドン・ペリ。

もちろん参加。

で、ひきあてたのは。

金賞2本のうちの1本、ドン・ペリニオン2000年。

何百年に一度であろう幸運に、感謝・感涙。

「いままでワインくじに投資してきたお金でとっくにドンペリ何本か買えたんじゃないのお?」とは畏友サツキさんのツッコミ。

いろんなことをトータルにかんがえれば、プラマイゼロになってるのだろう。とりあえず今は酒神バッカス様に感謝。