湊かなえ『夜行観覧車』(双葉社)。高級住宅地でのエリート医師家庭内殺人事件とその近隣の家庭内暴力、おせっかいおばさんの干渉などがぐるぐるとからみあってあぶりだされる人間の心の暗部。凄惨な状況のはずなんだけど、フィクションとして読んでて爽快。『告白』級のアナーキーを期待したが、こっちはちょっと救いと希望がさして終わる。

なぜ観覧車なのか、と思っていたら、「一周まわって降りたときには、同じ景色が少し変わって見えるんじゃないかしら」という一文にいきあたる。なるほど。

ぐるぐるぐると観覧車が上っては降りるように、「明日は我が身」になるかもしれないことへの警告も感じる。「こうやって他人を貶めているうちにも、今度は自分が加害者やその身内になる可能性があることを、なぜ考えないのだろう」。妻が夫を殺した高橋家や母が娘を殺しかけた遠藤家の人々は、多くの日本人がそうであるように、「善良」だったり「小心」だったり幸せになりたかったりする、ごくふつうの人なのだ。

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