「ワンピース ストロング・ワーズ」上・下巻(集英社新書 ヴィジュアル版)。ワンピースの「名言集」。力強い言葉は、今だからこそ響くものもあり、読みながら思わず手に力が入るほど。

「普通じゃねェ”鷹の目”(あいつ)に勝つためには 普通でいるわけには いかねェんだ!!!」

「災難ってモンは たたみかけるのが世の常だ 言い訳したらどなたか 助けてくれんのか? 死んだらおれはただ そこまでの男……!!!」

各巻の後につく内田樹先生の解説がまたすばらしい。内田先生はいろんな本や論壇誌でたぶん同じことを繰り返して語っているのだけれど、ここにもその繰り返されてきた言葉があり、その言葉はなんど読んでも読み飽きることがない(今のところは)。

「いわば、ルフィは『「ONE PIECE」的世界の生物学的多様性の守護者』として働いています。仲間を絶対に死なせないというルフィの決意は、『友情に厚い』とか『人情がある』というレベルのものではありません。それは、『一人を失うことは、ほとんど世界を失うことに等しい』という原理的な確信にルフィが領されているからです」

「仲間になる者については、名前と肩書と官名あるいは懸賞金額を示して終わり、というわけにはゆかない。ルフィとの出会いに至った、それぞれの長い歴史を物語らなければならない。それはこれから先も、彼ら彼女らには一人ひとりまたそれぞれ固有の物語が続いてゆくということです。ルフィとの冒険の後も、彼らはそれぞれに別の物語を生き続ける。未来は『オープンエンド』なのです。  (中略)   かつては違うところにいた。今はここにいる。いずれまた違うところに去っていく。そのような流動性のうちにある。たぶんそれが『生きている共同体』だと作者は信じている」

武道家としてのルフィの強さを分析した下巻の解説はさらに面白く、定形的な増量法でごりごりやってるかぎり、強さには限界がある、という指摘に続くくだりは、静かに心に響いてくる。

「たいせつなもののために生きる人間は、自分の中に眠っているすべての資質を発現しようとします。『スタイル』とか『こだわり』とか『オレらしいやり方』というような小賢しいものはルフィにはありません。そんなものは選択肢を限定するだけだからです。この解放性こそが本作中でルフィを際だって爽快な登場人物たらしめている理由だと僕は思います。ゾロもサンジも能力は高いけれど、『勝つこと』にこだわりがある。それも『自分らしい勝ち方』にこだわりがある。冷たい言い方をすれば我執がある。ルフィのような、仲間を救うためには使えるものは何でも使う(使えるものなら『敵』でも使う)という思い切りのよさがありません。それが現実に、身体能力の開発というプログラムにおけるルフィの圧倒的なアドバンテージをもたらしている」

そこから「組織論」へとつなぐあたりは、内田先生の真骨頂。

「僕たちはふつう自分の強さや才能といったプラス要素を誇示すれば、人々の尊敬や愛情を獲得できると考えています。でも、ほんとうはそうではない。僕たちは『あなたなしでは生きてゆけない』という弱さと無能の宣言を通じてしか、ほんとうの意味での『仲間』とは出会うことはできない」

自立した強い人間の強さには、限界があるという話。その人が死の限界を超えてもなお踏みとどまることができる強さを発揮するには、「私はここで死ぬわけにはいかない」という異常な使命感が必要だ、と。

「自分をほんとうに強めたいと思うなら、限界を超えて強めたいと思うなら、『私は誰かの支援なしには生きられない』『私の支援なしには生きられない人がいる』という二重の拘束のうちに身を置く必要がある」

ほかにも、くりかえしくりかえし読みたい、バイブルのような(!)言葉が連なる。「人に頼る」のはメイワクをかけることであり恥ずかしいことと思って遠慮してきたフシがあったが、発想を改めたほうがよさそうだ、と促される。考えてみれば、「人に頼られる」のはとてもうれしいことで、それに応えようとするなかで、自分にあるとは思ってもいなかった力が発揮された経験は少なくない。ほかの人だって同じはず。

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