素敵なバー体験、もう一軒は、木曜日に。新宿の京王プラザホテルの地下にある「ブリヤン(Brillant)」。本命は高層階の「ポールスター」だったが、いまは、金曜と土曜しか開けてないのだという。震災後の影響と、節電のため。だいぶ客足は戻ったそうだが、京王プラザにはバーが多いので、できるだけ電気や人手の無駄を省くためにこのようにしているとのこと。ホテル業界も必死にがんばっているのだ。

なぜ京王プラザかというと、2年ほど前にホテルバーメンズ協会主催のカクテルコンテストの審査員をしたときに、京王プラザが、歴代の優勝者を多数輩出していることで有名なホテルであることを知ったのである。そのときに私が花丸をつけたカクテル「紅(くれない)」も、ふたを開けてみると、京王プラザのバーテンダーが作ったものだった(彼はその年のチャンピオンになった)。

この日は、ホテルバーメンズ協会にも関わっている「日本マナープロトコール協会」の理事、明石伸子さんとともに訪れた。明石さんはお仕事柄、ホテルのバー事情に詳しく、ホテルマンにもお知り合いが多いので、さまざまなホテルのバーのスタイルの差異などを教えていただきながら、一味違ったバー体験を楽しむことができた。

京王プラザのバーテンダーは、一目で「あ、この人はバーテンダーだ」とわかる特徴的なヘアアスタイルをしている。なでつけた7×3分けか、リーゼント。やや時代遅れとも感じられる、このレトロなスタイルを守り続けることが、京王プラザの伝統のひとつ。

非日常的なバーという空間を演出するのにもっとも大切な要素は、「人」である。そこで働く「人」の独特のヘアスタイルは、プロ意識の証。そんな考え方が徹底しているので、レトロなスタイルが、いっそ、すがすがしく感じられる。

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実はホテルマンのヘアスタイルには、名前がある。「オークラカット」という。7×3の刈り上げ。床屋さんで「オークラカット」と言うと、そういう髪型にしてくれる。

無駄のないきびきびした動きが小気味よいバーテンダーのひとり、石部和明さんに、「そのレトロな髪型、好みなんですか?」とあえて聞いてみた。

すると石部さんのお答え。「いや、ホテルの外の地下道で私とすれちがうと、たぶんわかりませんよ。髪もどちらかといえば、ボサボサで。ホテルで働くときはバーメンをこの髪型で演じてるんです」。

でも、時代遅れでイヤじゃありませんか? とまたしても酔いに任せてぶしつけな質問をしてみた。「そうですね、外資系のホテルにいくと、バーテンダーは短髪にツンツンの髪だったりしますね。リーゼントは、外国人に対しては威圧感を与えるようで、あまり好まれないこともあるのです」。

でも、あえてこのオールドファッションなスタイルを守り続けているのである。なぜならば、「これが王道」だから。

とはいえ、他のホテルにはそれぞれ、そのホテルが「王道」と考えるスタイルがあるようだ。シェイカーの振り方にしても、たとえば、オークラには「オークラ振り」と呼ばれる振り方がある。シェイカーの向きが、通常とは逆なのだそう。

石部さんは、よく聞いてみると、なんと東京都のカクテルコンテストで優勝した経験をお持ちだった。チャンピオン・カクテルの名は、「桜舞(おうぶ)」。このベテランのバーテンダーに、バーで素敵に見える男の振る舞いとは? と聞いてみる。

「ほかのお客様に対してマナーを心掛けている人ですかね。そんなお客様は大事にしたいと思います。それから、知ったかぶりはしないほうがいいと思います。通ぶったり、知識をひけらかしたりするのは、あまりかっこいいことではありませんね。こちらはお酒のプロなのだから、私たちバーテンダーを上手に使って、バーテンダーの力を発揮させてくれる男性の方は、素敵ですね」。

「それから、女性とおふたりでいらっしゃる場合、多くの場合、女性が一枚うわてであることが、カウンター越しに見ると、よくわかります(笑)」。

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ホテルバーメンズ協会員のバッジ。やはり雄鶏(Cock)なのであった。

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