メンズウエア解剖、その5。モーターサイクルコートです。マッキントッシュ製、1942年のもの。

21421

まず、このようにコートの内側のベルトに足を通します。その後、内側のボタンを留めて、二股のズボン状にするのですね。

そのうえで、上半身を着用して、腰のベルトをとめ、ストームフラップを閉じて着用。

21420

着るとこんな感じ。サイズはやや大きいですが。後ろから見ると、つなぎにしか見えません。

ゴム引きで、重たく、蒸れそうだし、かなり着心地はよくなさそうですが、これに熱狂する男性が実に多いようで、いまだにリメイク版が作られ続けているそうです。私の印象では、コートというより、装備というか、クルマや武具、ガジェットに近い感じ。

21422

コートの内側にはこのような刻印。メンズウエアはどこまでも奥深い、というか歴史ぬきには語れないこと、あらためて実感しました。

メンズウエア解剖 その4。主にコーチマンの制服。

coachman とは、馬車の御者ですね。大きなお屋敷などでは、馬車の扉を開け閉めして、主人や客人を送迎する担当者も、コーチマンと呼ばれていたようです。写真ではわかりづらいですが、カラーの内側に鮮やかなレジメンタル模様の布地がついています。レジメンタルタイと同様、おそらく、所属を表す布でしょうか。

21430

写真では特徴がわかりにくいのですが…裏を見てみると、袖周りがかなり窮屈に感じられるように作られています。動きにくい。ただ、敬礼をしたときに、見ごろが全く動かず、その姿が美しく見えるのだとか!!! 敬礼を美しく見せるための服。その発想に感動しました。

21428

制服つながりで。いわゆるガイコツユニフォーム。ベルばらのオスカルなんかが着ている、全面にモールが飾られている服です。モールの立体感と迫力、じかに観ると、かなりドキドキします。

21425

ヴィンテージ・メンズウエア解剖 その3。ハンティングジャケット。狩猟用のジャケットで、多くのカジュアルジャケットの原型にもなっています。これは1920年代ごろ、フランスの服。

21418

ハンティングジャケットの常ですが、動物をモチーフにしたボタンがついています。このジャケットには、下のようなイノシシ×ベルトのボタン。Ecoute a la tete. という文字が見えます。これはどこかの結社?なにかの警句? おわかりになる方、どうか教えてください。

21417

このサイトには、やはり似たモチーフ、「イノシシ×ボタン×Ecoute a la tete」 のボタンが紹介されています。
http://www.venerieducerf.com/humeurs.html

ハンティングジャケットには、背中の部分に、大きな「ゲームポケット」がついています。ゲーム=獲物。撃ち取った獲物を入れておくポケットですね。

21415

フランス製のこの上着にはポケットの下部分に大きなマチがつき、中身を入れてもあまり背中のシルエットが崩れないような工夫がされています。

一方、写真に撮りませんでしたが、同時期のアメリカ製のハンティングジャケットは、作りは丁寧なものの、マチのあしらいはなく、シンプルなパッチポケット仕様なんですね。モノは入りますが、これだと中身を入れたときに上着のシルエットが崩れます。ポケットのつけ方、袖のマチのつけ方にも、フランス製には美意識が徹底的に行き届いている…と彰良氏は解説してくださいました。

中身を入れたときのことまで想像して細部にひと手間を加えるフランスと、とにかく丈夫さ優先のアメリカ。お国柄の違いではなく、メーカーの「格」の違いであったかもしれませんが、いや、でも、狩猟の歴史が長いヨーロッパの美意識に裏付けられた細部のひと工夫であるに違いない…と想像したくなります。

21416

このように、双眼鏡+帽子+ネクタイ+ブーツとともに着用されたハンティングジャケット。ミリタリーはハンティングから生まれているのではないか?というのが彰良理論ですが。

まったくおバカな個人的な希望としては、背中にゲームポケット仕様の大きなポケットがついた女性用の上着がほしい。そこにPCを入れて持ち歩くのです。笑

to be continued…

長谷川彰良コレクション、ヴィンテージ・メンズウエア解剖シリーズ その2。シャツです。

1880年頃のメンズシャツ。リネン製。やはり長い。

21410

ホームスパンのデニムシャツというかスモック。中央、そでに美しくギャザーが寄せられ、細かく目の詰まったステッチと刺繍が施されています。

2148

2149

これを分解した彰良氏の解説に目からうろこだったのです。このシャツはほとんど「直線」で作られた「四角い服」なのだそうです。なぜそうするかといえば、生地の無駄を省くため。一般に、シャツを作ると生地の20~30%は無駄になるそうなのですが、このシャツの場合、ほぼ10%しか無駄にしておらず、ぎりぎりまで布地を有効利用している。

でも「四角い服」だと、動きにくい。そこで、首の部分や袖の部分には三角の布を当てて動きやすい工夫をするうえ、とくに動きの大きな部分には、ギャザーを寄せてゆとりをもたせる!

つまり、ギャザーはたんなる装飾ではなく、あくまで必要から生まれた工夫であるというわけですね。

to be continued…

主に19世紀から1940年代ごろまでのホンモノのヴィンテージ・メンズウエアの膨大なコレクションをお持ちの長谷川彰良さんにお招きいただき、作り手による専門的な解説を伺いながら、あらゆる種類のメンズウエアを、その内部構造にいたるまで詳細に見るという贅沢な機会をいただきました。南青山の45Rpmのオフィスにて。

2142
すべてが博物館入りにふさわしいお宝ですが、一部は解剖して、型紙や芯地、ステッチにいたるまで詳細に研究していらっしゃいます。

21424
フランスのファイヤーマン(消防隊員)の制服のカラーにつく文様。火のマーク?

21419
左が現代のスーツ。右が1910年頃の上着の型紙をもとに彰良さんがリメイクした当時の服。ボタンを開いて着用するとふわっと蹴回し(すその広がり)がエレガントだけれど、留めて着用すると胸元にゆとり、すなわち「空気のミルフィーユ」ができる。それによって背筋がのび、胸元が堂々として見えるのだとか。

2147

2144
1880年頃のフランス海軍のメスジャケット。上は着用する彰良さん。その下は、肩章。ディテールが凝っている。

2145
さらに!前身ごろには金属の小さな球状のオーナメントがひとつひとつ手で縫い付けられている。

2146
裏地にもキルティングがこのようにがっちりと縫いこまれています。これによって、着ると肩が後ろに引っ張られるかのように背筋が伸びるそうです。さながらコルセット効果。ユニフォームを着ている軍人は常に姿勢がいいという印象なのですが、本人の意識もさることながら、このような上着の構造も看過できませんね。

to be continued…