やはり脚本家の勝利だ。The Crown season 2はますます面白くなり、エピソード8の “Dear Mrs. Kennedy”では、アメリカ大統領JFK夫妻がバッキンガム宮殿に訪れる。世界中はジャッキーブーム。宮殿の人々もジャッキーの来訪にそわそわする。しかしプロトコル知らずなアメリカ大統領夫妻、という設定。無礼なふるまいに対しても「少なくとも記憶に残る」とユーモアで返すフィリップ殿下がいかにも「らしく」ていい。

 

ジャッキーに好感をもつエリザベス。しかし実はかげでジャッキーがエリザベスのことを「面白みのない国家元首で、イギリスが衰退していくのもわかる。バッキンガム宮殿も古くさい」という批判をしていたことがわかる。

 

アフリカではちょうどガーナがイギリスおよび西洋諸国の支配から逃れ、ロシアと組もうとしていた頃。

周囲の反対を押し切って、ガーナを訪れ、ガーナ大統領に利用されながらも、最後は「反撃」に出て、大統領とダンスを踊るエリザベス。世界中に好感を持って報道された、「王室」外交の勝利。

ここまでエリザベスを大胆にしたのは、実はジャッキーの間接的「挑発」というか刺激だった……という脚本家の意図。おもしろすぎる。

 

その後、ジャッキーはエリザベスに謝罪に訪れ、夫のJFKとはうまくいっていないことや、本来、自分はシャイな性格で、向いていない務めを果たしているというようなことを話す。妹のマーガレットのほうが天性の女王だと思っている、というエリザベスは深いところで共感する。

そうだよね、多くの場合、「向いてない」と自覚している人ほど、その役割を生真面目に全うするから、実は振り返ってみると最適の役割だったことがわかる。ドラマ中、マーガレットはエリザベスに「姉さんは王冠をかぶると透明になる」というようなことを言う。しかしむしろ、大きな役割になると個性なんて出さないほうがよいのだ。エリザベスの強さはまさにその「面白みのなさ」「個性を出さない、生真面目さ」をまっとうしたことにあったのではと、ドラマを見ながら考える。

 

その後、JFKの暗殺。テレビでその様子を見るエリザベス。異例だが弔の鐘を鳴らさせる。

しぶい。泣ける。味わい深い。人間はこうやってお互いに知らず知らず影響を及ぼしあい、その結果は、まったく予想外の分野に波及するのだ。

マーガレットが結婚したのも、別れた恋人よりも先に結婚しなければという焦りのようなものがあったため。アンソニーが結婚を承諾したのも、自分を出来損ない扱いした母を見返したいという思いがあったため。当事者それぞれの背後にある過去の感情のもつれが、2人を結婚に焦らせる。そしてそういう関係はやはりいずれ破綻し、離婚へ。とはいえその前例があることで後のエリザベス女王の子ども3組の離婚がスムーズになるのだ。なにが災いとなり、なにが幸運の種になるのか、長いスパンでみてみないとまったくわからない。というかもうすべてが因果応報の連続で、淡々と人生が続いていくだけ。

 

脚本はピーター・モーガン、監督はスティーヴン・ダルドリー。

 

 

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