山口周さんがツボだったので引き続き「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」(光文社新書)。

明快でボキャブラリーが豊富、文章構成も緻密で快く読める。以下はまた個人的になるほど!と知ったことの備忘録メモですが。

・社会をよりよいものにしていくためには、ごく日常的な営みに対しても「作品を作っている」という構えで接することが必須。「社会彫刻」というコンセプトを提唱し、すべての人はアーティストとしての自覚と美意識を持って社会に関わるべきだ、と主張したのはアーティストのヨーゼフ・ボイス

・論理、理性の行きつく先は、「ほかの人と同じ答えが出せる」という終着駅、つまりレッドオーシャンでしかない。論理思考というのは「正解を出す技術」。このような教育があまねく行きわたったことによって発生しているのは、多くの人が正解に至る世界における「正解のコモディティ化」。

・経営は「アート」と「サイエンス」と「クラフト」の混ざり合ったもの

・デザインと経営には本質的な共通点がある。エッセンスをすくいとって、あとは切り捨てること。そのエッセンスを視覚的に表現すればデザインになり、そのエッセンスを文章で表現すればコピーになり、そのエッセンスを経営の文脈で表現すればビジョンや戦略となる。

・経営という営みの本質が、選択と捨象。

・ビジョンには人を共感させるような「真・善・美」が含まれていなくてはならない。

・求められるのは、「何がクールなのか?」ということを外側に探していくような知的態度ではなく、むしろ「これがクールなのだ」ということを提案していくような創造的態度での経営

・ソマティック・マーカー仮説。情報に接触することで呼び起こされる感情や身体的反応が、脳の前頭前野腹内側部に影響を与えることで、目の前の情報について「良い」あるいは「悪い」の判断を助け、意思決定の効率を高める。意志決定においてむしろ感情は積極的に取り入れられるべき。

・変化の激しい状況でも継続的に成果を出し続けるリーダーが共通に示すパーソナリティは、自己認識。自分の状況認識、自分の強みや弱み、自分の価値観や志向性など、自分の内側にあるものに気づく力のこと。

・オウム真理教に見られる「美意識の欠如」「極端なシステム志向」。戦略系コンサル業界にも見られる。生産性だけが問われ、人望や美意識は問われない。(お役所や最近の一部の大学もそうだ。こういうのを相手にしていると殺伐としてくる)

・DeNAの創業メンバーにおいても。問われるのは見識や人望ではなく「早く結果を出すこと」。システムの是非は問わず、システムの中で高い得点をとることにしか興味がない、という思考様式。

・非倫理的な営みに携わっていた人たちにとって、「誠実さ」とは自分が所属する組織の規範・ルールに従うことであり、社会的な規範あるいは自分の中の規範に従うことではなかった。ナチスドイツにおけるアドルフ・アイヒマン。「自分は命令に従っただけだ」と無罪を主張。

・悪とは、システムを無批判に受け入れること。

・より高品質の意思決定を行うために主観的な内部のモノサシを持つ。

・マツダが狙っているのは「顧客に好まれるデザイン」ではなく「顧客を魅了するデザイン」つまり「上から目線」。顧客のニーズや好みを探り、それにおもねっていくという卑屈な思考は放棄されている。ゴールは「感動の提供」。

・「歴史に残るデザインなのか」「魂動デザイン哲学を実現できているか」(マツダ)。

・哲学から得られる学びとは。コンテンツからの学び、プロセスからの学び、そしてモードからの学び。モードというのは、その哲学者自身の世界や社会への向き合い方や姿勢。哲学者がなぜそのように考えたのか、どのような知的態度でもって世界や社会と向き合っていたのか、という点については、コンテンツが古くなっていたとしても学び取る点は多々ある。(これ、まさに私が大学でこの10年間教えてきたこと。過去の流行を創ったデザイナーの、社会に対するモード=向き合い方・姿勢を学ぶ、これが中野ファッション学の肝なのだった。同胞を見つけて感涙の気分)

・システムを改変できるのはシステムの内部にいて影響力と発言力を持つエリートだが、そのエリートが、システムのゆがみそのものから大きな便益を得ているため、システムのゆがみを矯正するインセンティブがない。システムに参加しているプレイヤーが各人の利益を最大化しようとして振る舞うことで、全体としての利益は縮小してしまう。これが、現在の世界が抱えている問題がなかなか解決しない理由。

 

問題意識を持つ人にとっては大きなヒント満載の良書。でも思うに、「真・善・美」意識がもっとも必要と思われる(つまりぜひともこの本を読んでほしい)、ふるくさいシステムの中枢にいる人は、そもそもこのような本を読まないのだろうな。

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