昨日は山室さんの訃報に、すっかり打ちのめされたようになっていた。現場での取材活動に誰よりも熱心で、誰よりもボキャブラリー豊富に、誰よりも早く、誰よりも楽しそうに、誰よりも大量に、それを伝え続けてきた人だった。権威などものともせずに批判し、弱い人は全力でかばい、新人を熱く応援する、フェアな人だった。ファッショナブルであることに臆さず、いつも舞台衣装のように決めたファッションで、周囲を明るく楽しませてくれた。明治大学に講義にいらしたときだって、ピンクのジャケットだった。気分はいつも「ヒロミ・ゴー」で、でもそれがぜんぜんイヤミじゃなく、キャラクターとして溶け込んでいた。私の書くものを「同業者で唯一、嫉妬する文章」と評してくれた。最高の讃辞だった。まちがったことは正々堂々と批判するけれども、それが正当なものだったので、誰からもリスペクトされ、愛されていた、唯一無比の人だった。こんな、ファッション界にとってお宝のような人が、キャリアの絶頂でこの世を去るというのは、あまりにも惜しいし、あまりにも悲しい。
写真は昨年、ゲスト講師としてレクチャーしてくださった山室さん。学生の質問も真正面から受け止めて、真剣に答えてくださった。
53歳。なんだよそれ。この前亡くなったばかりの山口淳さんも52歳だった。なんでいい人ばかりが、才能のある書き手ばかりが、早く去るのだろう。
このところ、張りつめて、あれもこれも完璧にしなくてはと無理して頑張りつづけてきたのが、この訃報で、ぷつんとなにかが切れたようになって、しばらく虚脱状態になって沈み込んでしまっていた。
そんなところへ、カルチュア・コンシェルジェでもあるル・パランのマスターから「クラウド・アトラス」がよかったというお勧め映画のメッセージが届く。ほんとに偶然なのだが、これは、「一つの死は次の生の扉を開くこと、全ての生や魂はつながりあっている、そんなテーマの映画」とのこと。バーカウンターを離れても、いつだってこの方は、絶妙のタイミングで最適の言葉をそっとさしだしてくれるのだ。ありがとね(涙)。
元気を出してください、と教えてくれた映画のセリフがこれ。
「命は自分のものではない 子宮から墓まで 人は他者とつながる 過去も 未来も すべての罪が あらゆる善意が 未来を生み出す」
Our lives are not our own. From womb to tomb, we are bound to others. Past and present. And by each crime and every kindness, we birth our future.
そのように考えていくと、山室さんの急死も、決して単なる喪失などではなく、必ずやどこかでつながって、新しい生、新しい未来を、確実に生み出しているのだと信じたくなる。
少なくとも、多くの人々の心に、確かな善意のくさびを打ち込んできた人だ。その人たちが生きて、山室さんならどう考えるだろうという視点で、考えて、行動することで、山室さんの志が未来を生み出したことになる。そのように生きることが、いちばんの弔いになるのかな。
人の最期に臨んでみて、ありありと実感することば。Book of Quoteより。
「人生の終わりになって本当に重要になってくるのは、購入したものではなくて、築き上げたもの。得たものではなく、シェアしたもの。能力ではなく、キャラクター。成功ではなく、意義。価値のある人生を生きなさい。愛のある人生を」
"At the end of life, what really matters is not what we bought but what we build; not what we got but what we shared; not our competence but our character; and not our success, but our significance. Live a life that matters. Live a life of Love…"
Muro, You lived a life that really matters. Please Rest In Peace.