英各新聞のメンズスタイル欄に最近頻繁に登場しているのが、ニック・クレッグ。野党第二党のLib Dem(自由民主党)の党首で、童顔の43歳である。先だってのテレビ公開討論会では、現首相で労働党党首のゴードン・ブラウン、野党第一党の保守党党首デイヴィッド・キャメロンをおさえて、高ポイントを獲得していた。

ネクタイが象徴する3人のテーマカラーがわかりやすい。ブラウンは赤よりのパープル、キャメロンはブルー、そしてクレッグは金色である。

英「フィナンシャルタイムズ」17日付のヴァネッサ・フリードマンの記事によれば、金色のタイは、マークス&スペンサーのものであるようだ。ライラックやパープルのタイの政治家が多い中、金色はとにかく目立つし、暗い時代に輝かしさを与えてくれる。(日本の現首相も、いっとき金色のタイで話題になったことを思い出す・・・・・・)

クレッグのスーツスタイルも、政治的な立場のメタファーになっている、という指摘。ブラウンの「武装としてのスーツ」スタイルと、キャメロンの「サヴィルロウなんだけど袖をまくりあげたりワークブーツを合わせたりもする」いまどきリッチスタイルの、どちらにもころばない中庸のスタイルだと。クレッグのスーツはトラディショナルで、目立たない、既成服が多い(白かブルーのシャツ、ダークスーツでピンストライプなどはなし、イエーガーやポールスミス風のクラッシックスタイル)。このスタイルが、まさにクレッグの立場を象徴している、と。

指摘されてみると、たしかに、スタイルが「人」を表わしているなあ、と見えてくる。そういうふうな見方(言葉)を提示できるジャーナリストがいて、そういう言葉を掲載できるメディアがある、というのは、ちょっとうらやましいな、と思う。

「ファッション界をゆるがした25の映画」という記事、英「タイムズ」21日付。

「セックス・アンド・ザ・シティ2」の公開を盛り上げる記事である。この映画(&ドラマ)にはそれほどのめりこめないのだけれど、やはり「なにごと?!」と胸騒ぎを起こさせるファッションのインパクトの大きさは認めざるをえない。「2」ではさらに、写真を見るかぎり、ファッションが尋常ではないレベルにまで進化しているようだ・・・・・・。

それはそうと、「タイムズ」が挙げるベスト25のファッション映画。

1.ウエスト・サイド・ストーリー(1961)

2.昼顔(1967)

3.大いなる眠り(1946)

4.つぐない(2007)

5.俺たちに明日はない(1967)

6.アニー・ホール(1977)

7.ファクトリー・ガール(2006)

8.ココ・アヴァン・シャネル(2009)

9.風と共に去りぬ(1939)

10.リプリー(1999)

11.パルプ・フィクション(1994)

12.トップ・ハット(1935)

13.ファニー・フェイス(1957)

14.泥棒成金(1955)

15.マトリックス(1999)

16.シングルマン(2009)

17.トーマス・クラウン・アフェア(1999)

18.スージー・ウォンの世界(1960)

19.ズーランダー(2001)

20.グレー・ガーデンズ(1975)

21.ロイヤル・テネンバウムズ(2001)

22.プライスレス(2006)

23.プラダを着た悪魔(2006)

24.アバター(2009)

25.ミルドレッド・ピアース(1945)

「花様年華」は?「ロミオ+ジュリエット」は?「マリー・アントワネット」は?「ムーラン・ルージュ」は?「シカゴ」は?「アメリカン・ジゴロ」は?「カミカゼ・ガールズ(下妻物語)」は?という選漏れ名作の数々がすぐに頭をよぎったが、まあ、ヨーロッパ人の一般的感覚としてはこういうラインナップなのでしょうか。

試写をもっともよく見にいっていた20年ほど前は、ファッション業界の人と、映画の試写を見に来るような人は、「人種が違う」と感じていたことを、なぜかふと思い出した。

移動の途中やネイルの間などにちょこちょこと見ていた「マッドメン」、シリーズ1を全部見終える。第4話あたりからペースがわかってきて、がぜん面白くなっていった。

ひとつひとつのエピソードのオチは、おとなで骨太で、しびれるばかり。とりわけ強烈に印象に残っているのが、第7話の「赤ら顔」で、ドンが、自分の妻に言い寄ろうとした上司のロジャーに対しておこなう、ささやかなリベンジ。ランチに大量のカキを大量のお酒とともに流し込み、エレベーターを「故障」させといて、23階まで階段を上らせる。顧問団の前によろよろとたどりついた上司のロジャーは、そこでカキを吐いてしまい、大恥をかく。最後にほんとうにさりげなく映るドンのにやりとした顔が、シブい。ドン自身も同じこと(カキ&酒&階段上り)をしていながらなんともない、という強さも同時に相手に見せつけた。マッチョなメンツをかけた「男のリベンジ」やなあ。

グレース・ケリー似のブロンド美女で、模範的な専業主婦のベティが、生活にどこか満たされないものを感じ、モデル業に復帰しようとするも結局望みを絶たれる、という話のオチの苦みもよかった。第9話の「射撃」。ドンはモデル業をあきらめた妻に、手をとって優しく言うのである。「家庭にいてくれる君は、最高の母親だ」みたいなことを。ベティも、専業主婦であることに何不自由のない幸せを感じているわ、と天使の微笑みでこたえる。次のシーン。「君は僕の天使だ」という脳天気な歌がのどかに流れるなか、ベティはたばこをくわえながら、空を飛ぶ鳥たちをばんばん狙い撃ちするのである。セリフなしでの、ベティの心象風景の描き方、うますぎる。

ドンの秘書が急激に太り始めていく理由が、ストレスによるものではなかったことが明らかとなる最後の話にも驚愕する。男はみんなオス、女もしたたかなメス、自分勝手な登場人物たちの濃い人間関係に、はまってしまった。「シーズン2」のボックスを即、注文する。