第56回中部マーケティング会議が名古屋観光ホテルで開催されました。1200名、500企業が参加されたそうです。4日午後のパネルディスカッションのファシリテーションを務めさせていただきました。
パネリストは、村瀬弘行氏(SUZUSAN、有松絞り×グローバルファッションブランド、五代目)、能作千春氏(能作株式会社、高岡鋳物・錫製品ブランド、五代目)、そして鎌田安里紗氏(一般社団法人 UNISTEPS、ファッション×サステナビリティ)です。
3つの論点で展開しました。2時間たっぷり話が展開されましたが、以下、ほんとにさわりの概要です。
【論点①】伝統を「売れるもの」に変えた視点
村瀬弘行氏(SUZUSAN) 26歳で有松絞りの技術を継承したが、当初からの戦略は「最初の5年間は日本で売らない」こと。有松の絞りを「素材・技術・用途」に分解し、技術(絞り)だけを不変の核として保持、素材をカシミヤに、用途を現代的ライフスタイル製品に置き換えた。ペルソナは「キッチンに醤油がない人=非アジア圏の生活者」。現在は売上の55%がヨーロッパ、15〜20%が北米。
能作千春氏(能作) 父(四代目)が真鍮の洋風ベルを作るも全く売れず。セレクトショップの店員に相談したところ「日本にはベルを使う文化がない、短冊を付けて文具にしては」とアドバイスを受け、月30個→月3,000個へ激増。この体験から「ユーザーの声を聞く」哲学が生まれ、全国に直営店を展開。2003年に着目した「錫100%」は当初3年間で数百個しか売れなかったが、直営店でのデモンストレーション(「曲がる金属」の実演)で爆発的に認知拡大。欠点と見られていた「曲がる」特性を逆に最大の強みとして訴求した逆転の発想が転機に。
鎌田安里紗氏(UNISTEPS) ファストファッション台頭後、製造プロセスの不透明性に問題意識を持ちサステナビリティ領域へ。ラグジュアリーとサステナビリティは「かつては相反する」とされていたが、現在では透明性・倫理性がラグジュアリーの価値そのものになっていると説明。SNSによる情報民主化が消費者意識を変え、高校生すら「あのブランドの労働環境は大丈夫?」と問う時代。「問題を告発する」より「ものづくりの面白さを伝える」アプローチの方が内発的動機を引き出せると強調。
中野補足:2015年以降、倫理性がラグジュアリーの正面価値として確立。「知ること」じたいがラグジュアリー体験の一要素となっている。LVMHアルノー会長と松野長官(当時)の面談以降、産地の名称は積極的に出すことが奨励されている。産地固有のストーリーがますます求められ、重要に。
【論点②】市場創造のリアリティ 最大の壁とその乗り越え方
村瀬氏 リーマンショック直後の2008年創業。資金ゼロ、コネゼロからスーツケース1個で欧州の店舗に飛び込み営業。断られてもフィードバックを商品改良に活かし再訪問するサイクルを繰り返した。パリファッションウィークでは約5,000ブランドが競合する中、フィジカルな粘り強さで突破。「愛らしい図々しさ」が海外展開の突破力だったと中野が評。
能作氏 2017年の新工場(見せる工場)建設が最大の転機。背景には1990年代に工場見学に来た母親の一言「ちゃんと勉強しないとこんな仕事に就くよ」というショックから、父が「産業の素晴らしさを自ら伝えなければならない」と決意したことがある。工場公開に反発した職人(約半数が「見世物じゃない」と反対)には言葉より体験で説得。イベントへの参加・実演を通じて職人自身が「見せることの誇り」に目覚め、工場の清潔感・意識も一変。産業観光が事業の大きな柱となった。
中野補足:ブルネロ・クチネリの「人間主義的経営」と同構造を感じる。職人を最も大切にし、自覚を与えることが最終的に最高品質のラグジュアリーにつながるという循環。
【論点③】若者・世界・未来への発信
村瀬氏 ターゲットは当初40代以上の女性だったが、近年20代男女がSNS経由で自発的に来訪。「本物と偽物を自分で判別しようとする」Z世代の特性を実感。展示会で23〜25歳の女性が8万円のカシミヤニットを購入、理由を聞くと「周りはLabubuだけど、私はSUZUSANがいい」という言葉が衝撃的だったと語る。また中学2年生国語教科書にSUZUSANが掲載されており、将来的なブランド認知形成にも期待。
能作氏 富山・高岡市では小学5年〜中学1年で「ものづくりデザイン科」という地域産業を学ぶ授業があり、工場見学が義務教育に組み込まれている。幼少期に工場を訪れた子どもたちが大人になって入社するケースが増加。20〜30代の職人が増え、意見や発想が多様化。新ジュエリーブランドがファッション層への新たな入口になっていると評価。
鎌田氏 若者全員が意識高いわけではないが、「ネガティブな情報に加担したくない」という消極的な倫理意識は広くある。一方でSDGsウォッシュへの不信感も強く、「にじみ出るリアリティ」のある発信(SUZUSANやNOUSAKUのような作り手の言葉・現場)に2割程度の若者が強く反応すると分析。
【論点④】会場との対話 後継者・協業の未来
後継者について(村瀬・能作) 能作は女系家族5代続き、千春氏自身が初の女性社長。娘への継承を願いつつ「家族で大家族に」という経営観を語る。村瀬氏は子どもがなく後継未定だが、企業理念を「We are a bridge(橋渡し)」と再定義し、過去と未来・西と東・文化と文化をつなぐ会社として次世代に渡したいと述べた。
今日の場の参加者との協業について 村瀬氏は「地域性と歴史はすぐに作れない。それがテロワールとしての新しいラグジュアリーの核」と提示。能作千春氏は日本工芸の危機的状況(廃業の連鎖)を訴え、業種を超えた連携と工芸の「アーカイブ」化を提案。鎌田氏は「売り場と産地が近い名古屋・中部エリアの特異な強み」を指摘し、消費者と産地をつなぐ体験設計を一緒に作りたいと表明。
【クロージング】中野香織による総括
今日の学びを3点に整理:
1.外側から見る。自分たちの価値は近すぎると見えない。物理的・職業的な距離を置いてはじめて価値が発見できる(村瀬のドイツ支店、能作のセレクトショップ経由の気づき、鎌田の消費者側からの視点)。
2.文脈を翻訳する言語をもつ。技術そのものは変えられなくても、語られるコンテクストを時代と市場にあわせて翻訳することで価値が生まれる。石材を売る事業を「石材業」ではなく「アート」に転換した大倉山スタジオの例もも。
3.完璧な条件を待たずに動き出す。村瀬はストール一枚の手売りから、能作はできることから一歩ずつ、鎌田はブログ執筆から始めた。
「価値は発見されるものではなく、設計するもの。設計は意志の賜物。」(中野)
8か月前から準備を進めていた事務局のみなさま、関係者の方々に心より感謝いたします。
会場となった名古屋観光ホテルは、あのエスパシオの系列で、満開の慶應桜がふんだんに飾られた華麗なエントランスに心が浮き立ちました。
スタッフのホスピタリティも制服も麗しく、居心地のよいホテルでした。名古屋に天皇陛下がいらしたときにお泊りになるホテルだそうです。昨年10月にできたばかりというスパも最新の設備を備えています。
今度は仕事ではなくゆっくり滞在したい……。





















































































































































