芦田多恵さんにお誘いいただき、石井竜也30周年記念コンサートに出かけました。24日、音楽の殿堂、上野の東京文化会館大ホールにて。
東京フィル・ビルボードクラシックオーケストラの管弦楽×石井竜也。オーケストラの演奏を背景に、休憩をはさんでほぼ2時間、石井竜也がひとりで歌いきります。約2300人収容できる大ホールはほぼ満席。そしてステージには石井さん作のアート作品も飾られています。作詞・作曲をして歌まで歌い、アクセサリーも作り、衣装もデザインし、絵も描くという石井さんの多才なルネサンス人ぶり。
第一部はオーケストラによる米米CLUBのヒット曲の序曲から始まり、「 THE WING OF DREAMS~夢の翼~」「 Pink Champagne Night」「LOVELY SMILE」と続いていく。
聴き慣れていたポップな曲が、オーケストラのしっとりと格調高い演奏になじんでいることに驚きます。というか、本来、交響曲として作られたんじゃないかというくらいぴったり。オーケストラのテンポに合わせて丁寧にゆっくりと歌われるので、ひとつひとつの歌詞が心に確実に届けられます。
編曲は千住明さん、指揮は大友直人さん。この三人は家族ぐるみのお付き合いが長いそうです。この日も、大友さんの奥さまと、石井さんの奥さまマリーザさんにご挨拶させていただきましたが、お二人とも、このような仕事での競演は夢にも思っていなかったことで、実現したのはほんとうにうれしいと語っていらっしゃいました。
「 Party Joke」「 HORIZON」「出逢い」と続くうちに調子も上り、合間、合間にはさまれるトークでも笑わせてくれます。大好きだったおじさんのエピソードというのがひときわ印象深かった。「僕がガレージに火をつけて燃やしちゃった時もおじさんだけが僕の味方になってくれて、僕を浜辺に連れ出して 『竜也、おまえ、なにやった?』『(泣きじゃくって)燃やっ、燃やしちゃった』『それはいいこと?わるいこと?』『(泣)わ、わるいこと』…」(というようにこんこんと諭してくれた)。「そんなおじさんが大好きで、愛してるとか、尊敬してるとか、そんなことばだけじゃ表せない感情、愛してる以上の感情があるなって。そんな思いで作った曲です……」というすてきなトークの後に「愛してるだけじゃない」と続く。ぐっときますよね。
そして第一部最後の曲として「 君がいるだけで」。照明も巧みで、歌に合わせてドラマティックに変わっていくのです。石井さんのステージ衣装も、ご自身のデザインだそうですが、燕尾服の変形型。白いウエストコートの後ろがひらひらとたなびくように作られており、オーケストラの黒×白の正装と違和感なくなじみながら、スターのオーラを引き立てます。目にも楽しいコンサート。写真は、公演パンフレットより。
休憩をはさんで、第二部はドヴォルザーク「スラブ舞曲第8番 ト短調」からスタート。「これト短調だから好きなんです。ヘ長調だったら嫌いですね。ぼくもいつかト短調作りたい」というコメントで笑わせながら、「Where is Heaven」「 天地の乱舞」「Eternal Ligth」と続いていきます。
千住明さんのこの曲は、本来はウィーン少年合唱団のような感じで歌うべき曲なのに57にもなるおっさんが歌っていいものか、などと笑わせながら客席から見守っていた千住明さんをステージからご紹介。客席の千住さん、指揮台の大友さんとの三人の強くてあたたかな友情が終始感じられたのも、このコンサートの大きな魅力でした。
そして、米米からソロになって初めてのシングルを拾い上いあげてくれた企業としてJALへの謝辞を述べて、「 WHITE MOON IN THE BLUE SKY~FLYING HEART」「浪漫飛行」のクライマックスへと続きます。前者は東京から沖縄へ行くとき、後者は沖縄から東京へ向かうときに流れているそうです。ちなみに私が石井竜也ワールドでいちばん好きな曲は「浪漫飛行」。
第二部では、このように白一色に衣装替え。写真は同じく公演パンフレットより。
そしてアンコールに入るのですが、そのときのトークが今回のピカイチでした。「子供の頃からお調子者で好奇心が強く、誘われるとついふらふらとそっちに行っちゃうんです。どうか誘惑しないでくださいね」。
実は最近のスキャンダル報道があってからの、最初のコンサートでした。そこでこのギャグ。会場も爆笑で拍手。ファンはみんな寛大で、あやまちをすぐ認めて謝った石井さんを愛をもってゆるし、変わらず応援している、そんな優しい空気が満ちていたのです。この優しさに包まれたことが、最大の収穫だったような気がしています。
私の隣には妻のマリーザさんが座り、一曲一曲、祈るようにステージを見つめ、うなずき、安堵し、拍手し、ステージ上の石井さんの心と一体になっていらっしゃることが伝わってきました。強い信頼の絆を、マリーザさんの表情、振る舞いすべてから感じとることができました。
そして歌われる「幻想の理想」。途中から、マイクを下ろし生の声で熱唱します。オーケストラも音量を絞っていき、会場が石井さんの声で一体となった瞬間でした。「人は幻を求め 現実に夢を見る そして気がついたら 何もないことを知る」歌詞がすべてリアリティをもって迫ってきます。あちこちで涙ぐむ人が。
次の「君に戻ろう」で歌い出しを間違えるミス。これがかえって爆笑を呼び、大友さんと石井さんの絶妙なやり直しのかけあいで、ひときわ会場の一体感が強くなります。ぜったいにミスをしないことも大切ですが、ミスをすみやかに挽回し、かえってそれを利点に変えていく力量にその人の真価があらわれるものですよね。ここにおいてもそんなことを感じました。
最後に、熊本・大分の地震で被災した人々へのメッセージもこめて「まだ早いかもしれませんが」とお断りを入れ、「ヒハマタノボル」。
「日はまた昇る この町に 雨も雪も風も闇も それでもまた日は昇る」……。さいごに合掌しながら深々と礼。感動の余韻を残してステージを去っていきました。
写真は、石井竜也公式フェイスブックページより。
終了後、芦田多恵さん、ご主人の山東英樹さん(Jun Ashida社長)、広報の熊井美恵さんとともに、楽屋に感動を伝えにうかがいました。こんな貴重な経験をさせていただけるのも、山東さん、多恵さんご夫妻と石井さんご夫妻の日頃のおつきあいがあるおかげ。私までご相伴にあずかり、心より感謝します。
実は多恵さんは2月のオーチャードホールでのこのコンサートにも参加しており、この日が二度目です。内容がすばらしいので何度も聴きたくなるということももちろんありますが、報道で落ち込んでいるかもしれないマリーザさんを”We are here on your side”と励ましたいという思いも強かったのではないでしょうか。このような友情にも胸があつくなります。
左から山東英樹さん、芦田多恵さん、石井竜也さん、中野、マリーザさん。写真を撮ってくださったのはジュンアシダの有能な広報、熊井美恵さんです。写真は、みなさまのご了解を得て掲載。
奇しくも私も人生の新しいスタートをきったばかり。今後の方向を希望の光とともにさし示してもらったような忘れがたい一夜でした。友情、愛、寛大なゆるし、ユーモア、そしてことばと音楽によって人と人とがやさしくつながりあい、心を支え合うことができるというヒューマニティのすばらしい一面を共有できた約2000人を超える観客のみなさまにも、お礼を申し上げたい気分です。