Be Suits 服学 Vol.4 「マフィアとスーツ」が公開されました。

この回に着用している白いスーツも前回と同じ廣川輝雄さん作。同じ日の撮影で、インナーと小物、髪型だけ変えています。

マフィアの回の黒いブラウスはナラカミーチェの定番フリルブラウス、オッドベストは豊橋のテーラー、Shuhariさん。Shuhariのオーナーさんが買い付けていらしたものです。同じ白いスーツでもインナーと髪を変えると全く違う印象になることがお分かりいただけるかと思います。ハードウェアとしての良いスーツを何着か作っておくと、オケージョンに応じてインナーや小物だけ買い足していけばいい。蓄積が増えて着こなしの幅もひろがります。また、エイジズムやルッキズムが厳しい世界でも(ほんとにとほほですよね)、スーツをきちんと着ているということで少しはその枠組みの外にいると見られ、心無い中傷を免れられることもあると感じています。

 

 

Be Suits チャンネル「服学」シリーズにお招きいただきレクチャーしております。Vol. 1の「スーツの歴史」、Vol. 2の「世界のスーツ」に続き、Vol, 3 は「女性とスーツ」です。

撮影と編集はルアーズのZ世代のスタッフです。ありがとうございました。

今回着用している白スーツは8年前にThe LOAの廣川輝雄さんに製作していただいたもの、白はどうしても変色が目立ってくるのですが、襟の部分だけ新しい生地に取り換えていただきました。インナーも白にすることでいい感じのグラデーションが生まれ(!)、たぶんそれほど違和感もありません。あと1,2年愛用してさらに変色が気になったら、全体を藍で染めてみようと廣川さんからご提案されています。それもまた楽しみですね。スーツはトレンドに左右されない良いものを一着作っておくと、ほんとに10年以上、着用できるんです。(ややパツパツ感が出てきているのでシェイプアップしなくてはという意識も芽生えます……)

インナーは私がプロデュ―スしている半襟型ブラウスです。上着を脱ぐとブラウスジャケットとしても活用できます。試作をトータルで10回以上重ねました。あまりにも市販のブラウスに理想形がなさすぎるので、自分でデザインすることにした次第です。多くの方々のご協力を仰ぎ、今年中には製品化される予定です。

 

直前のご案内になりまして恐縮ですが、30日、31日の2日間、富山の全日空ホテルでレクサス富山主催の「新しいラグジュアリーを求めて」をテーマとするイベントが開催されます。

クルマを取り巻く世界は常に最先端ラグジュアリーの象徴だったのですが、今回も、レクサス次世代EVカーや水素バギーなども展示されています。ドライブシュミレーターもあります。


富山ゆかりの、世界で活躍するアーチスト、クリエーターも、作品とともに17名、結集しております。お近くにお住みの方で、地域創生に関心をお持ちの方もぜひ。お時間がゆるせば涼みにいらしてください。

私は両日、講演とファシリテーターでほぼ会場におります。ご来場いただけそうでしたら、中野宛にメールまたはSNS(インスタ、FB、X)メッセージをいただければ幸いです。詳細をお知らせいたします。

レクサス富山主催で、無料です。出入りも自由。

レクサス富山がハブとなるローカルラグジュアリーの構想。実装するとすれば、こういうのがありうるという未来図を、僭越ながら、妄想レベルではありますが、示してみたいと思います。

富山、石川近辺のみなさま、お目にかかれましたら幸いです。

恒例の高知日帰り出張でした。いつも朝一のJALのKの座席から見る富士山を楽しみにしています。真夏はさすがに雪はひとかけらもない。雲が山の稜線に寄り添うようになびいており、それはそれで味わい深い富士でした。

 

さて。まだ修行の途上につきエラそうなこともいえませんが、最近立て続けに、30代の女性4人から つらかった時にはどうやって乗り越えましたか? という質問を受けました。

なぜ今この年代の女性たちが?という疑問はいったんさておき(大事な問題ですが)、 経験上、これは効いたという「乗り越えの方法」を答えました。

困難やつらさがのしかかっているときに、感情に負担をかけすぎないためにやることはとてもシンプル。

寝る前に、明日、やるべきことを箇条書きにしていく。

ゴミをだす、とか○○さんに返事を送る、とかの単純作業でいい、 とにかく「明日、やるべきこと」を淡々と書いて列挙する。次の日はそれをひとつずつ消化して線をひいてクリア、クリア、クリア。

負の感情にやられず、小さな達成感が積み重なって心が安定していくことが多いです。大きな課題もこうやって小さいステップを作り、それを日々、経ていくと、その暁にクリアできます。

感情に負担をかけず、小さな行動を重ねていくことがポイント。

これだけクリアした!という達成感で一日を終え、また新しい明日のためのリストを作る。 それだけで気持ちが明日を向くので、そのうち運気も上向きになっていきますよ(たぶん)

GARDE 創業40周年記念メディアラウンドテーブル&店舗見学会にお伺いしました。

GARDEはラグジュアリー×グローバル実装×ローカル文化翻訳を基盤に、デジタル(メタバース)・地方創生・アートへと射程を広げ、「場の体験価値」を設計する総合デザインコンサルです。

お仕事の性格上、あまり表に名前は出てこないのですが、ほとんどのラグジュアリーブランドの内装や店舗設計を手がけていらっしゃいます。表参道のブランドの店舗はほとんどといっていいほどGARDEさんのお仕事と聞いて驚き。

代表取締役の室賢治さんに続き、デザイナーの桐谷万奈人さん、奥村恵子さん、錦織杏奈さんのプレゼンを聴き、社長と元バーニーズCDの谷口勝彦さんの対談。

空間はたんなる売場を超え、PR・不動産・地域・DXまでを束ねる戦略資産であるという視点から、日本的美意識と工芸を核に、リアルとメタの二層で体験価値を増幅し、次世代のラグジュアリーを設計していくというビジョンが示されました。

谷口さんの「売り場にはユーモアが必要」という視点になるほど、と。また訪れたくなる空間にはユーモアがある、と。人もそうかも?

その後、表参道の主要な店舗を見たあと、アルマーニカフェでティータイム、お話の続きを伺いました。

アルマーニのかき氷をいただきました。底にミックスベリーとマスカルポーネがずっしり入り、氷はふわっふわ。センスがいいのかそうでないのかのギリギリの際を攻めている感。食べ応えありました。左は谷口さん。

くらっとする暑さでしたが、ラグジュアリー空間がどのような考えのもとに作られているのか、具体的に学ぶことができた貴重な機会でした。あらためまして、GARDE創業40周年、まことにおめでとうございます。

「若返り」を正面から掲げる美容液が登場しました。アウグスティヌス・バーダーの〈AB セラム エクセプショナル〉の発表会で衝撃を受けました。従来の「老化の遅延」ではなく、加齢サインの巻き戻しというロンジェビティ(長寿)発想に軸足を移した点が新しい。肌を身体最大の臓器(!)として扱い、再生科学の理論を化粧品に応用してきた同ブランドの「第二章」にふさわしい挑発です。解説するのは本国のグローバルディレクター、クリスティアン・ウェロンさん。

要となるのは、成分の配達と指令の最適化。ブランドの中核テクノロジーTFC8™を再設計した「アドバンストTFC8™」は、細胞間シグナルと成分デリバリーの道路網を太く速くするという考え方。従来が通常の飛行機であったとすれば、今回の新成分はコンコルドの速さで届くと言います。そこに、ゾンビ細胞(老化細胞)へのアプローチをうたうヒトペプチド・コンセントレート、コラーゲンを生み出すことにおいてレチノールの約3倍の働きを示すとされるバイオミメティック・エラスチン、オートファジー活性をねらうスペルミジン含有マリンアルゲ由来成分が合流していきます。

水分を極力削った超高濃度処方で密度を上げる設計は、価格に対する説明もしやすい。コミュニケーションも直球です。使用2時間での視覚的変化、56日で「シワ最大78%減、ハリ46%増、弾力21%増」という同社提示データは、体感までの距離をぐっと縮めます。

なぜ今、この言葉と設計が刺さるのか。平均寿命が延びていく世界では(日本では84歳)、関心は長生きから「どう健やかに生き切るか」へ移っています。ウェルネスと美容医療の境界が薄れた時代に、ABの提示するのは「修復」からさらに進んだ「再生の最適化」。

〈エクセプショナル〉の名を冠したラインは、単発の話題作で終わらせず、次弾のビタミンCセラム、2026年秋のモイスチャライザーへと世界観が拡張されるとのことです。

〈AB セラム エクセプショナル〉が、「肌の若返り」という強いメッセージにふさわしい公開データと長期追跡で実績を積み上げ続けるなら、ラグジュアリー×サイエンスの領域において、この製品は新しい「標準」になっていくはず。次元を一つ上げてきたなあ、という感慨があります。

ラグジュアリーの関心が「ウェルネス」に向かうなか、「長寿」「若返り」を謳う美容がここまでハードルを上げてきました…。

A serum that puts “rejuvenation” squarely on the label has arrived. At the launch of Augustinus Bader’s AB Exceptional Serum, the shift was striking: away from merely delaying age, toward rolling back its visible signatures through a longevity lens. Treating skin as the body’s largest organ and translating regenerative science into cosmetics, the brand signals a bold “second chapter.” The presentation was led by the company’s Global Director, Christian Veron.

The crux is optimizing delivery and signaling. Advanced TFC8™, a re-engineering of the brand’s core technology, is conceived to widen and accelerate the “road network” of intercellular signals and active transport. If the previous iteration flew at commercial speed, this one aims for Concorde. To it are joined a human-peptide concentrate targeting senescent (“zombie”) cells, biomimetic elastin said to stimulate collagen production at roughly three times retinol’s effect, and a spermidine-rich marine algae complex designed to encourage autophagy.

A deliberately water-minimized, ultra-concentrated architecture raises formula density—and clarifies the value proposition. The communication is equally direct: visible change in two hours and, at 56 days, up to −78% in lines, +46% in firmness, and +21% in elasticity (per the brand’s data), collapsing the perceived distance to results.

Why does the message resonate now? As life expectancy rises (84 in Japan), the conversation is shifting from lifespan to how fully and healthily we live. In an era when wellness and aesthetic medicine increasingly intersect, AB moves beyond “repair” to optimization of regeneration.

Crucially, Exceptional is framed not as a one-off but as a platform, with a vitamin C serum next, and a moisturizer slated for autumn 2026.

If AB Exceptional Serum continues to pair its bold promise of “rejuvenation” with open data and long-term follow-up, it has every chance of becoming a new benchmark at the nexus of luxury and science. One leaves with the sense that the brand has, quite simply, raised the game.


オイルカラーでトゥヤトゥヤにしていただきました。ヘアケアもテクノロジーで進化していますね。カキモトアームズ青山店。

「迷彩柄を考える 戦争やまぬ今」という記事で、朝日新聞本紙にもコメントが掲載されました。

ウェブ版にも引き続き掲載されておりますが、有料会員のみ全文お読みいただける仕様に戻っております。

 

FAS 新作発表会。

美容の世界では「顔」に比べて「身体」が軽視されてきました。ボディケアはせいぜい保湿や日焼け止めにとどまり、エイジングケアの本格的な対象とされることは稀でした。

FASが新たに打ち出したボディケア、「ドレープシリーズ」は、可能性に満ちたその領域に挑みます。

注目したいのはシルク成分開発の背景です。衰退産業とされる養蚕の現場に光を当て、余剰となっていた繭を美容資源として再利用している点。このアプローチは、地域産業や環境資源の循環にまでよい影響を及ぼします。

さらに、香りの設計に源氏物語を持ち込み、日本古来の「香りを聞く」という感覚を呼び覚まそうとする姿勢は、美容が文化の再解釈の場となり得ることを示していませんか。

今回のFASの新製品は、美容産業が、どのように日本的な知と資源を取り込み、新たな意味を付与できるかという問いを投げかけている点でも、意義深いと思います。

 

In the beauty world, the “body” has long been overshadowed by the “face.” Body care has typically been limited to moisturizers and sunscreens, rarely regarded as a serious focus of anti-aging treatments.

With its newly unveiled body-care line, the Drape Series, FAS ventures boldly into this underexplored, possibility-rich domain.

Particularly noteworthy is the development of its silk-derived ingredients. By spotlighting the declining sericulture industry and repurposing surplus cocoons as a beauty resource, FAS has transformed what was once considered waste into innovation. This approach not only revitalizes regional industries but also fosters a sustainable cycle for environmental resources.

Equally compelling is the fragrance design, which draws inspiration from The Tale of Genji and seeks to revive the ancient Japanese sensibility of “listening” to scent. Such a gesture suggests that beauty can serve as a stage for cultural reinterpretation.

In this sense, FAS’s latest creation is more than a product launch. It poses an important question: how might the beauty industry harness Japanese knowledge and resources to create new layers of meaning?

単なるファッションでしょ、とはいかない時代になっています。

この時代に迷彩柄を作る・着ることはどのような意味を持つのか?

朝日新聞・松澤記者からのインタビューにコメントしました。21日12:58まで、こちらで全文無料でお読みいただけます。

また、21日の朝刊本紙で記事として掲載される予定です。

どの業界、どの職種においてもそうだと思うのですが、いま、ファッションブランドはAIとどう向き合うかという課題に直面しています。

ブルネロ・クチネリが展開するSolomeo AIという人工知能があります。クチネリの哲学や倫理観に基づいてインタラクションを展開するAIで、彼の頭の中と対話できるかのような体験を与えてくれるのですが、そのAIによれば、上記の答えは次の通り。

効率化やトレンド予測、顧客データ管理はAIに委ねることができるが、最初のスケッチや職人の手仕事、顧客との信頼関係構築、最終的な卓越性の判断は、「人間の聖域」として人間しか守ることができない。

ブルネロによれば、AIが雑務を担うことで、クリエイターはより人間らしい創造に集中できるということになります。

同じ問いは、文筆家にも突きつけられているんですよね。AIによるそこそこ質のいい文章生成が急速に普及するなかで、新聞や雑誌の記事にもAIっぽいものが増えました。それで「不便」はありません。記事内容によっては、人間性が感じられないほうが風通しもよかったりします。もう、記事を正確にまとめるだけの文筆家は淘汰されていきます。では、「人がわざわざ書く意味」とは何でしょうか。クチネリの姿勢と同じく「聖域を見極める」としたらそれは何でしょうか。

AIに委ねることができるのは、膨大な情報の整理、要約、構成の叩き台づくり、あるいは言葉のバリエーションの提案、誤字脱字の文章修正といった部分でしょうか。

一方で、人間が手放してはならない聖域、というか、文章に人間らしさを保とうとすれば人間にしかできないであろう領域があります。どのテーマを選ぶかというひらめきや直感。書く人の人生のコンテクストを踏まえた比喩や象徴の選択。その人らしさを感じられる独自の文体やリズム。読者と信頼関係を築き、感情を揺さぶる非合理的であたたかい力。さらに「何を信じ、何を伝えようとするのか」を決断する責任でしょうか。

完璧なAI文ではなく、不完全さを抱えた、生身の呼吸が宿る人間の言葉にこだわる文章は希少価値を増していくのではないかと楽観しています。とはいえ、そういう文章もAIが書けるようになる未来がいつかはくるのかな。

Photo: サモエドに遊んでもらいました。at 町田市。ただそこにいるだけで相手を笑顔にする、ただそこにいるだけで貴いという動物に学ぶところは大きいですよね。

ウェス・アンダーソン監督の新作「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」試写。

アンダーソン印炸裂で世界観に完全に引き込まれた。衣裳はミレーナ・カノネロで1950年代のスーツが圧巻。音楽はアレクサンドル・デスプラで、荘厳な推進力のある独特のリズムにすっかりはまる。出ずっぱりのベニチオ・デル・トロはじめクセの強い俳優陣の個性的な魅力はたまらないし、カルティエ、ダンヒル、プラダといったハイブランドがとんでもないものを作っている。ラストはまさに「新・ラグジュアリー」の世界に帰結してじわり。

詳しくはキネマ旬報に書きますので、しばしお待ちくださいませ。

9月19日公開。

 

Photo: 古代フェニキアの地図。CC BY-SA 3.0

真珠王・御木本幸吉さんの項目も『アパレル全史 増補改訂版』より 抜粋・編集してPresident Onlineに公開されています。

うどん屋の息子だった幸吉は青物商を始め、海産物も扱うようになる。海産物の中で最も儲かるものは…… 海女が偶然に出会う天然真珠だった。

であれば、養殖して作ればいい、と発想する楽観性。

今現在の現実の足元をまっすぐな目で観察し、思い込みから「ムリ」と決めつけたりはせず、すぐに行動し、研究を重ねて成功するまで12年でもやり続けるという行動力と執念。

世界中から「ニセモノ」とバッシングを受けても闘い続ける強さと自信。

周りの人を笑顔にしてしまうユーモアと茶目っ気。

私が敬愛してやまない起業家です。

さらに詳しくは、『「イノベーター」で読むアパレル全史 増補改訂版』をお読みになってみてください。

英語版はこちら

Photo: Mikimoto展示会にて筆者撮影 Yuima Nakazato × Mikimotoのコラボ

ブライダル一筋を貫くことで、日本文化の復興にも貢献した桂由美さん。

『「イノベーター」で読むアパレル全史 増補改訂版』から抜粋・編集して、プレジデント・オンラインに記事が掲載されています。

戦後、神前式結婚式がポピュラーになったのは 神道が普及したためではなくて 神道の宗教的な意味が欠落していたから。クリスマスの普及も同じですね。大衆化の過程においては 、(是非はさておき) 意味が欠落しているほうが広まりやすいということがありますね。

 

英語版はこちら

 

Photo: Yumi Katsura のショーにて筆者撮影

19世紀末のイギリス社会は、帝国史観による輝かしい側面だけを追うならば、「大英帝国に日の沈むところなし」と呼ばれた、イギリス帝国主義が頂点に達した時代でした。

しかし、別の側面から見てみると、違う顔が見えてきます。急速な産業化や都市化、そして帝国の拡大と国際情勢の緊張によって、不安と閉塞感が高まっていた時代でもありました。当時の庶民層から知識人階級に至るまで、人々は決して平穏とは言えない時代の波に呑まれ、戦争の影や社会的不安定の渦中にありました。そのなかで「リバティ」は、美術・工芸・デザインという形式を用いて、文化的抵抗をおこなっていたのです。どのように??

まず、当時の「進歩」の影にどのような社会不安があったのか、列挙します。産業革命による大量生産と機械化により、職人たちは仕事を失い、地方の伝統的なライフスタイルは瓦解しました。一方、都市では、スラム化や劣悪な労働環境、貧困と格差の拡大が社会問題化します。

女性や弱者への抑圧もありました。女性の権利は制限され、コルセットや社会的束縛などにより、解放とはほど遠い状況でした。また、労働者階級やアイルランドなど周縁地域は、経済的にも文化的にも不安定な立場に置かれていました。

加えて、国際的緊張が高まっていました。帝国主義競争や植民地支配の拡大、列強間の摩擦などから絶えず戦火の足音が聞こえていました。時代全体に、近づく戦争や社会体制の崩壊への漠然とした不安が蔓延していました。

そのような時代の不安に、リバティは美と装飾を用いて対抗します。

〇工芸・デザインを通じて日常に美を届ける癒し

産業化や戦争の脅威で荒廃しがちな社会に対し、リバティはウィリアム・モリスと協働し、手仕事による美しいテキスタイルや家具、日用品を通じて人々の暮らしに心の安らぎや精神的余白を与えることを重視します。大量生産の冷たい均質さに対する、手仕事や工芸による「人の温もり」や「自然との調和」を称える行為であり、美の力で社会全体に癒しや連帯感をもたらす文化的活動です。

(とはいえ、購入できたのはある程度の経済的余力のある層のみで、そこにジレンマを感じたモリスはやがて社会運動に傾倒していきます)

〇服飾改革を通じて女性解放

リバティは束縛的なコルセットを否定し、自由で動きやすい「アート・ドレス」を提案。身体の自由を実現し、女性の社会進出や解放運動と結びつけました。デザインそのものが社会の抑圧に抵抗する「個人の自由」と「未来への希望」を体現していました。

(とはいえ、コルセットに対する強迫観念は強く、完全な開放は20世紀を待たねばなりません)

〇多文化主義の推進

リバティは日本・中国・中東のモチーフや、ケルト様式とアール・ヌーヴォーの融合を積極的に展開。「異国趣味」を超え、帝国主義や排他主義へ対抗する形で多文化主義的な価値観や想像力を広めました。「美しいものは国境や立場を越えて人を結びつける」という思想も込められています。

〇ソーシャルクラフト 弱者自立と連帯感の創出

地方工芸ワークショップ(アイルランドのカーペット生産など)を設け、貧困女性や労働者の雇用と誇りを生み出しました。デザイン活動を社会正義や人道支援へもつなげていたのです。

以上のようにリバティが中心となっておこなっていた工芸・デザイン運動は、不穏な時代において美・装飾・日常を通して静かで根源的なかたちで社会を変革しようとした運動でした。

国家や規範が個を圧迫する時代、リバティは装飾やデザインを通し、個人の尊厳と自由を訴えていたばかりではなく、閉塞した社会観に対しては、多様性の寛容と異文化への共感を装飾で体現したのです。

こうした運動は、戦火と不安の時代を背景にした、静かで創造的な文化的抵抗でした。この意味で、グローバル資本主義がもたらした分断と過剰消費、排外主義に抵抗する現在のローカルラグジュアリーの運動と同じ精神をもっています。

 

Photo: Liberty Department Store, London. By Luis Villa del Campo. CC BY-SA 2.0

分断が進む時代に「ローカルラグジュアリー」を提唱することが、100年前の民藝運動が文化的抵抗を静かにおこなったことと似ている、ということを前項で書きました。北林功さんが講演内で示唆したことなのですが、そのアナロジーがよくわからないという方のために、どのような点で民藝運動が文化的抵抗だったのかを以下、簡単に解説します。

〇規律や均質化に対する、生活レベルからの抵抗

1940年代、商工省主導で「大日本工藝会」や「美術工藝統制会」が生まれ、ほとんどの工芸団体や美術団体が一元的な統制・指導の下に組み込まれます。戦争が近づく不穏な空気が漂う中、民藝運動の旗手・柳宗悦らは、当時の軍国主義や国家主義が推進する「一元化」「統制」「均質化」に真っ向から対峙しました。彼らは「名もなき民」の手仕事や、各地の風土に根ざした暮らしの素朴な美にこそ本質的な価値があると主張し続けます。政府が設立した「大日本工藝会」など画一的な統制団体の枠組みから距離を取り、日本民藝館の独立運営を守り抜きました。

〇周縁、ローカルを尊重することによる、標準化への抵抗

民藝運動は、沖縄や朝鮮、アイヌといった「日本の周縁」の文化や工芸を尊重し、称揚しました。この姿勢は、「国家総動員」下の同質化圧力・中央集権的な文化政策に対する反発でした。中央統制のもとで多様性が抑圧され「標準化」が叫ばれる時代において、他者や多様なローカル文化がもつ独自の価値を尊重すること自体が明確な抵抗になったのです。柳宗悦の朝鮮工芸への評価や、沖縄における現地当局との対立なども、この流れの一環です。

〇日常、無名性、人の手仕事へのまなざしによる、国家による文化規制に対する抵抗

国家が推し進めた「工業化」「大量生産」に対し、民藝運動は無名の人が手仕事で生み出す日常の道具・雑器にこそ美があるという思想を打ち出しました。日常生活の中に潜む豊かさや、あるがままの暮らしへの賛美は、戦争遂行のために役割を割り当てられる社会への問題提起でした。雑誌『民藝』『工藝』の刊行や各地での民藝品展覧会の自主開催は、国家による文化規制を超えた価値体系を広く社会に提示する文化運動でもありました。

〇生活世界の美を死守することによる、価値の選別への抵抗

民藝館の維持や民藝品の保全に、時に命がけで取り組んだ事例(民藝館を空襲から守るために駒場に残った柳宗悦夫妻など)は、「文化こそ守るべきもの」とする強烈な意志のあらわれです。これは、国家や権力構造による「価値の選別」への根源的な異議申し立てであり、戦火の中でも消えない生活世界の美を守る姿勢そのものでした。

以上、とてもおおざっぱな「抵抗」のポイントだけ列挙しました。

民藝運動の抵抗は、政治的声明や直接的なデモではなく、生活の現場から湧き出す多様な美、日常と無名の豊かさ、周縁文化の尊厳を守り発信し続けることで、文化レベルでの独立を守り続けた運動でもありました。不穏な時代、統制や同質化が過剰に求められる時代にあって、柳宗悦らは、人間の営みの根元にはいかなる権力も奪えない多様な価値が息づいていることを示し続けていたのです。

こうした民藝の精神をふまえ、グローバル資本主義がもたらした社会的分断、過剰な消費に抵抗する文化運動として、ローカルラグジュアリーを位置づけています。

 

Photo: 1950年頃の柳宗悦

奈良・京都を拠点に世界をつなぎなから活躍する北林功さんをお迎えした雅耀会第5回、大好評をいただき終了しました。

100年前の民藝、150年前のリバティ運動が戦時の不穏に対する文化的抵抗であったように、いまローカルラグジュアリーを唱えることは、分断と過剰消費の時代に持続可能で人間的な豊かさを取り戻す道筋を示すこと。そんな方向性を共有していただきました。

ローカルラグジュアリーは地方の工芸のおみやげ品を作ることでもないし、観光を巻き込むことでもない。世界のラグジュアリーの潮流にダイレクトにつながる考え方です。

京都からお越しくださいました北林さん、ご参加くださいましたみなさまに感謝します。

The 5th Gayo Society welcomed Isao Kitabayashi as our guest.

Just as the Mingei movement a century ago and the Liberty movement 150 years ago served as cultural resistance to the unrest of wartime, advocating local luxury today points to a path for restoring sustainable, human-centered prosperity in an era of division and overconsumption. Mr. Kitabayashi shared insights aligned with this very direction.

Local luxury is neither about producing regional crafts as souvenirs nor about tying them to tourism.

It is a sustainable way of thinking that connects directly with global luxury trends.

連載「ラグジュアリーの羅針盤」Vol. 33 「豪奢と素朴は大地でつながる」ウェブ公開されました。

アラン・デュカス氏は1984年の飛行機事故の唯一の生存者だったんですよね…。

飛行機に乗る恐怖を克服した後のデュカス氏の覚悟に思わず背筋が伸びました。

「ルールから外れていると言われたら、もっと外れる。高すぎると言われたら、さらに高価にする。苦すぎると批判されたら、さらに苦みを際立たせる」

その徹底が、常識をゆさぶり、ラグジュアリーの革新をもたらしてきたのです。

平均値になって安心してる場合ではない。

英語版はこちら

「記憶に残るドレスは、ただ見た目が素晴らしいだけでは不十分です。
それは、わずか数ヤードの布や、前と後ろのスケッチにすぎないものではありません。
そのドレスには、着る女性を魅了し、心を躍らせ、変容させるだけの十分な魅力と神秘を織り込まなければならないのです。なぜなら、ドレスを忘れがたいものにする最も重要な要素は、ほかでもなくそれを纏う女性だからです」(”100 Unforgettable Dresses”にアルベール・エルバスが寄せた序文より)

 

先日、あるウェディングドレスをめぐるレンタル店と利用者とのやりとりがSNSで大きな反響を呼びました。レンタル予約されていたドレスが、別の場面で意図せず使用されたと伝えられたことから、利用者が不満を示し、議論は職業観や価値観の問題にまで広がりました。

このできごとは、ドレスという一枚の衣服が持つ力をあらためて思い起こさせます。アルベール・エルバスが『100 Unforgettable Dresses』の序文で述べたように、女性の魅力と一体となったドレスは単なる布切れではなく、女性を変容させ、その瞬間を永遠に刻む力を発揮します。マリリン・モンローのゴールドドレスやオードリー・ヘプバーンのジヴァンシーのブラックドレス、ダイアナ妃のウェディングドレスやリベンジドレスが、ある時代の象徴として歴史に刻まれているように、究極のドレスは人の人生を変容させ、社会の記憶に残るほどの力を発揮します。

そして忘れてはならないのは、その力が価格やブランドに依存するものではない、ということです。高価であるか否かにかかわらず、「その人にとって」究極の一枚であるならば、それはラグジュアリーの領域に属します。ラグジュアリーとは、人の心を高揚させ、自信と輝きを与え、変容をもたらすパーソナルな体験そのものだからです。

今回の一件は、職業観や背景の違い、そもそものデザインを持ち込んでの論争にも発展しましたが、ドレス、とりわけウェディングドレスが女性にとってどれほど大切で特別な存在であるかを私たちに思い起こさせるできごとでもあったのではないでしょうか。着用者の心を曇らせることなく高揚させ、歓喜と自信を与え、新しい自分へと変容させるほどのパワーをもつもの、それが「その人にとって」高い価値をもつウェディングドレスなのです。一点でも心を曇らせる何かが入り込めばすべて台無しになる、だからこそウェディングドレスのデザイナーも業界は最大限の配慮を怠たらない。

たかが服、代わりはなんだってあるでしょ、という見方もあるでしょう。その一方で、ドレスと女性と歴史にはこのような本が書かれるほどの歴史があるということを知ったうえで、一枚のドレスが生み出す変容と記憶の力をもっと尊重してもいい。と思っています。

*ウェディングドレスのデザインに生涯を支えた桂由美さんについても、『「イノベーター」で読むアパレル全史 増補改訂版』に詳細に解説しました。ぜひお読みになってみてください。

アメリカの若者向けカジュアルブランド、アメリカン・イーグルが公開した新しい広告が話題でした(すでに次の広告が登場)。出演したのは、人気急上昇中の女優シドニー・スウィーニー。

「Great jeans(すばらしいジーンズ)」と「Great genes(すばらしい遺伝子)」をかけた表現で、金髪・青い瞳の彼女が登場します。キャッチコピーはおしゃれな言葉遊びに見えますが、一部のリベラル層から「優生思想を想起させる」「白人の美を特権的に強調している」との批判が噴出。SNSでは「ナチスを思わせる」とまで指摘する声もあり、#BoycottAmericanEagle(アメリカン・イーグルをボイコットせよ)というハッシュタグまで見られる事態となりました。

背景には、アメリカ社会特有の敏感さがあります。人種やジェンダーに関する表現は、歴史的な差別や不平等の記憶と結びつきやすく、少しの表現でも強い反応を引き起こしてきました(かつての文化の盗用問題もそうでしたね)。とくに「genes(遺伝子)」という言葉は、20世紀前半の優生学や人種差別と結びつけられやすいワード。たとえブランドが冗談半分で用いたとしても、「白人の遺伝子がグレートと暗に言っているのではないか」と解釈する人々が現れても不思議ではありません。

一方、「批判は過剰だ」という声もあります。保守派の政治家や有名メディアは「ただの言葉遊びをナチス呼ばわりするのは行きすぎ」と反論。むしろ広告は話題を呼び、開始直後にアメリカン・イーグルの株価は10%以上も上昇しました。結果的に、批判が炎上マーケティングとしてブランドの知名度を押し上げた形です。

今のアメリカ人の反応を計算しつくし、ぎりぎりのところを狙って炎上させ、名を広めることに成功したマーケティングのお話でした。

写真はアメリカの空を悠々と飛ぶイーグル。ブランドとは関係ありません。

Photo: Bald Eagle flies over Hockanum Reservoir. East Hartford, CT USA.  Paul Danese, CC BY-SA 4.0