ミラー ハリスから「ストーリーズ コレクション」。発表会にお招きいただきました。ヴァルカナイズロンドンにて。

このコレクションは、物語から抜粋した一節に着想を得たフレグランスシリーズ。

オレンジの印象が強い「スフロ」は、アーネスト・ヘミングウェイの『日はまた昇る』。パリのリュクサンブール庭園での早朝の散歩の記憶を再現しているそう。朝なのにタバコとレザーの余韻が残るグルマンフローラル。

グリーンの印象を放つ「セラドン」は、曹雪芹の『紅楼夢 』。翡翠色の青磁を想起させるモス系グリーンノート。

もう一つは陰影のある華やかさが印象に残る「スケルツォ 」。
F・スコット・フィッツジェラルドの小説『夜はやさし』からインスパイアされた、1930年代のフレンチリヴィエラの再現。

言葉から立ち上がる物語の情景を想像しながら試香すると、ああ、なるほど…と納得感がある。香りと情景と言葉の複合作用。感覚が鍛えられるような体験でした。

北日本新聞ゼロニイ 7月号が発行されました。鶴岡市のスパイバー本社に伺い、CEOの関山和秀さんに取材した記事を書きました。

 

関山さんは最高にかっこいい方です。人類にとっての普遍的価値を紡ぎ出す、と決めているのですから。

 

なお、スパイバー社は、日本から唯一オートクチュールウィークに参加するYuima Nakazatoの親会社でもあります。

MIKIMOTOがパリ・オートクチュールコレクション期間にハイジュエリーのコレクション”The Bow”を発表しました。

中央はトルマリン。前後どちらでもつけられるというのもいいですね。後ろにつけたときの、この絶妙なVライン。

伝統のリボンモチーフです。とはいえこの現代性と芸術性とドラマ性はなにごとでしょうか。トップ写真のボディジュエリーのドラマティックな洗練ときたら。

ドラマティックといえば、このジュエリーを引き立てているドレス。オートクチュールデザイナー、Yuima Nakazatoの高度な技術が駆使された一着です。Mikimoto とYuimaのコラボレーション!

こんなふうに分けてブローチとしてもつけられるというのも。モデルが男性というのもいまどきです。2019年前後に、MIKIMOTOとギャルソンのコラボから仕掛けられたメンズパール。ジェンダーフリーの勢いにうまく乗り、いまではすっかり定着しましたね。

写真はすべてMIKMOTO広報部からのご提供です。

 

<よろしかったら、ご参考に>

*MIKIMOTO 2020カタログに寄稿したジェンダーニュートラルのパールの歴史に関する記事はこちら。同記事の英語版もあります。

*Men’sEXに寄稿したメンズジュエリーに関する記事はこちら。(2019年1月)

*Switchに寄稿した男性と真珠に関する記事はこちら。(2020年4月)

*婦人画報に寄稿した、歴史的瞬間を彩ったパールに関する記事はこちら。(2021年6月)

*『「イノベーター」で読むアパレル全史』(日本実業出版社)には創業者である御木本幸吉の生涯に関する項目を書いています。御木本幸吉は私が最も敬愛する実業家のひとりであり、御木本幸吉とMIKIMOTOブランドに関する講演もおこなっています。

天皇皇后両陛下、チャールズ国王主催の晩餐会出席に際し、カミラ王妃はビルマのルビー(Burmese ruby)のティアラを着用されましたね。エリザベス女王が1973年にガラードに製作を委託したティアラで、ルビーとダイヤモンドでチューダーローズをかたどっています。

96のルビーは、ビルマからエリザベス王女(当時)の結婚祝いとして贈られていたものだそうです。

カミラ王妃は、お気に入りデザイナーのひとり、フィオナ・クレアの白いドレスでしたが、ティアラで日本の国旗、紅白を表現して敬意を表した…というところでしょうか。それにしても今年の外交場面、白が本当に多い。

 

雅子皇后の菊のティアラも海外で初めて着用されたようで、イギリスではプチセンセーション。

不思議なのは、雅子皇后の今回の訪英の衣裳に関し、ブランドやデザイナーの名前が宮内庁から公表されないこと(いつものことですが)。イギリス王室はブランド名、デザイナー名をすぐに公表するんですよね。メディアが詮索する前に公表するという感じ。その結果、イギリスブランドのビジネスに多大な影響力を及ぼしています。

日本はあれかな、どこかを「選んだ」ことで他の競合ブランドに対し不公平になるのをおそれて公表しないという発想なのかな。いや、どんどん公表したほうが励みになると思うんだけどな。今回の昼間のレースのコートアンサンブルも、夜のレースのドレスも、すばらしかったな。作ったデザイナーを称えたいな。日本の皇室ファッションをめぐるこのあたりの事情、まったく霧に包まれていてわかりません。

JBpress autographに開催中の「カルティエと日本」展のレビューを寄稿しました。

多くの意味で「結び」の威力を感じさせる展覧会です。個人的に驚いたのは、画家・北野武さんを早くからカルティエが支援していたという事実。武さんの絵は、漫才や映画に通じる破壊力あります。

多くのファインジュエリーや時計なども日本との文化交流で生まれていることがわかり、相互作用の力を再認識いたします。

散歩の途中で立ち寄ったサイゼリヤで嬉しかったことがあったので書いておきますね。

グラッパとトリフアイスクリームを頼んだのです。300円以下でグラッパを気軽に飲めるって、それだけでけっこうハッピーなことではないですか?

すると、これを持ってきてくれた店員さんとは別の、店長?らしき方が席までいらして、「失礼ですが、サイゼリアの方ですか?」と聞くのです。え?ときょとんとしていると、「グラッパとトリフアイスクリームを一緒に頼まれるのはかなりわかっていらっしゃる方なので、もしかしたら本部の方ではと思いました」と。

いやそれほど深く考えていたわけではまったくなかったのですが、「あ、ああ、この組み合わせのチョイスがよかったのですね。たまたまでしたけど、勉強になります」と言ってグラッパに口をつけたのですが、店長らしき方はいったん奥へ行き、今度はなんとエスプレッソを一緒にもっていらっしゃいました。

「このエスプレッソには砂糖が4つ、沈めてあります。これをグラッパと一緒に飲んでみてください。サイコーにおいしくなりますから!」とサービスしてくださったのです。

摂取カロリーが気になりましたが、それほどまでおっしゃるなら、とトリフアイスの合間にグラッパとエスプレッソを交互に飲んでみたら、なるほど! アルコール度40度の食後酒ですがフルーティーな余韻とエスプレッソの深みがいい感じにブレンドされ、「強すぎて酔う」ようなことまったくなく、気持ちよくお店をあとにしたのでした。

まさかサイゼリヤでこんな素敵なサービスを受けるとは夢にも思わなかった。マニュアル通りに人が働いているチェーン店とは一線を画しますね。破格なほどお安く提供し、そのうえ、こんなにヒューマンな接客をしてくださるとは。(実はこのサービスもマニュアルの中にあるとか…?とすればなお侮りがたし)

 

 

 

韓国映画「ニューノーマル」試写。最初から最後まで、予測不可能。見たことのない種類の映画である。オムニバス形式で、4日間の間にソウルで起きている殺人事件、失踪事件、事故を描く。それが現代の「普通の」日常にひそむ孤独や疲労や欲や絶望から生まれていることがうっすら浮かび上がる冷ややかなおぞましさ。出てくる人たちみんなが、一人で品数の少ない、ときにインスタントなご飯(とは呼べないものも)食べている。彼らがお互い交差していることがわかる最後の章。

孤食がニューノーマルになった時代にどんな危険がめぐりめぐってにじみ出てくるのか。まったく解決も収束もしないそれぞれの絶望的なストーリーに「え…?」と取り残される。けれど、あとからじわじわいろんな思いが沸き起こってくる。あれが自分であってもおかしくはない、と思わせるリアリティ。現代の観客が自分目線で没入したその先にもっていかれる闇。日常の中にあるおそろしさをあぶりだす新感覚のサスペンススリラーで社会派映画。

監督はチョン・ボムシク。お久しぶりな「冬ソナ」のチェ・ジウも予想もできなかった役で出演。

美食家ダリのレストラン」試写。邦題がゆるいので大きな期待はしていなかったゆえに感動が想定外でした!

シュールレアル、革命、ダリ、エル・ブジ、カオス、狂信、地中海の光、70年代、夢、神話、アズーロ(青)、混沌のなかから愛と光と幸福に満ちた美しい人間賛歌があふれている。心が洗われるような光り輝く映画でした。この映画が好きだという人とは友達になれる、そんな感じのいとおしい映画です。

日本経済新聞夕刊「モードは語る」。本日は、来週から始まるパリ・オートクチュールコレクションの意義について書いています。

運営に詳しいブラッドリー・ダン・クラークスと、日本から唯一、ゲストメンバーとして参加する中里唯馬氏にインタビューしました。

電子版はこちら。(有料会員限定で恐縮です)

紙版コラムもよろしくね。

写真は、Andrea Heinsohn for DesignArtMagazine.com 。
DAMのジャンヌ・マリーさんに大変お世話になりました。パリ・オートクチュール直前の時期に丁寧に取材に応じてくださったブラッドリー、唯馬さんにも心より感謝申し上げます。コレクションのご成功をお祈りし、応援しています。

英語版は、noteに公開しています。

STEMCELL & Co.株式会社の代表取締役、石川和彦さんにお招きいただき、銀座7丁目の幹細胞培養上清液エステサロン「STEMCELL & Co. GINZA」に伺い、お話を聞きました。

いまでは多くのコスメが「幹細胞」をうたい、いわばブームになっています。しかし、いったいどこの幹細胞由来なのかについてはあまり表記されていないのではないか? 先日は「リンゴ幹細胞」まで見かけました。植物ならまだよいかもしれませんが、海外ものに関しては、ドナーが誰(何)なのか、安全性をうたっていても濃度がどうなっているのか、疑念がつきまといますよね。幹細胞培養上清液の基準については、厚生労働省が定めたガイドラインや法律がない無法地帯なのだそうです。

その点、このサロンで使用する幹細胞培養上清液は、由来が確かで、全てセルプロジャパン株式会社製の上清液と保証されています。日本人ドナー、100%国内製造のヒト臍帯由来幹細胞培養上清液、100%原液! -60℃での冷凍保存が可能な医療用フリーザーで保管して、使用する直前に上清液を解凍して施術を行います。

セルプロジャパンとは、再生医療の研究の第一人者、佐俣文平氏が2019年に設立したバイオベンチャー企業です。佐俣氏は、京都大学のiPS細胞研究所(CiRA)の神経細胞研究分野の研究員。ドナーを選定する際のドナースクリーニングやドナーから提供された幹細胞に対する検査や試験を行い、抽出した培養上清液についての検査も実施。結果、世界最高クラスのクオリティの高さと安全性を備えた幹細胞培養上清液の提供が可能になっているとのこと。

なかでもさらに稀少なCPJ(コードプラセンタジャンクション)由来の幹細胞培養上清液に関しては、ステムセル社が独占販売権を持っています。

サロンはベッド1台だけのプライベート感のある部屋で、イオンクレンジングのあと、エレクトロポーションで原液を導入していきます。即効力があり、直後は内側から発光しているような肌に仕上がりますが、3日ほど経つとさらにつや感増し! 原液の威力。

最初は2週間に一度、定着したあとは1か月に1度くらいのケアが理想だそうですが、合間のためのホームケア用品もあり。

CPJ由来幹細胞培養上清液とWABARAが食用として育てたダマスクローズの100%ローズウォーターを主成分とするエッセンスと、10日間の集中美容液。このサロンのほか、セレクトショップ、リステアで限定発売されているそうです。

フランチャイズ店は表参道とモンゴルのウランバートル(!)にあるそう。モンゴルでは西洋とロシアをつなぐ貿易で富裕になった層が美容に関心高く、日本産の化粧品がとりわけ人気なんだとか。知らなかった…。

 

 

 

SPUR 8 月号発売です。

SPUR初開催のベストフレグランスアワード2024 ss (上半期)。上半期に発売された100種類くらいの香水を試香し、そのなかから部門ごとに選びいくつかについてコメントしました。

それにしても日本でもこんなに多くの香水が発売されるようになっていたのか。たったの半年間ですよ? クリスマスを控える下半期はさらに増えそうですね。

選者それぞれに基準や好みがあるので多様な製品が選ばれているのが興味深いです。

私はエルメスの「H24 エルブ ヴィーヴ」を選んだのですが、基準は「ラグジュアリー(ブランド)のあり方を示している」という点です。これは世界初の最先端テクノロジーを自然と癒合させた新時代のフレグランスでした。「シャネルNO.5」もそうでしたけど、まだだれも使っていないテクノロジーや素材や考え方をいち早くとりいれて伝統に新しい視点をもたらすという姿勢、これがラグジュアリーを謳える最低必要条件になってくると思います(十分条件ではないですが)。

長いコメントが掲載される誌面の余白がなかったので、補足しました。

 

ラグジュアリー論はさておき、やはり個人的な好みの多くはバラ系に行きつきます。現在のヘビロテは先日ご紹介したセルジュルタンスの「鉄塔の娘」。バラのインパクトを強化すべく、飲むバラ水の飲用も始めました(笑)。

アウグスティヌス・バーダーとソフィア・コッポラがコラボしたティント・リップバーム発売に際し、バーダー教授とシャルル・ロゼCEOが来日、トーク。「私のクリームを使った人はすぐわかるよ」と会場をにこにこ見渡す教授の蝶ネクタイと迫力時計がいい味を出していました。目が合いました(笑)

研究資金が必要で始めた事業が大ホームラン、多くの人を幸せにしているって幸運な科学者人生ですね。

アウグスティヌス・バーダーは、細胞の自己治癒力を促すシグナルを再建するTFC8で特許をとっています。

「停電を修理しようとしても、道具箱がないと直せないよね? TFC8は細胞を修復するための道具箱のようなもの」という「ツールボックスコンセプト」の解説がわかりやすかったです。

ティントリップはソフィア・コッポラがこの3色さえあればすべてのオケージョンに対応できると厳選した色味らしく、どれも肌なじみのよい洗練された色です。

「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」試写。原題は”High & Low – John Galliano”

高級な世界からホームレスな世界まで。キングとなった栄光の絶頂からどん底まで。ハイ&ローを生き抜いている天才ガリアーノのドキュメンタリー。最高にきらびやかなハイなショー世界から、暴言をはく現場を撮影されるローな世界まで、観ているほうの心もアップダウンする。

あの栄光の陰で心が壊れていっていたのだ。作品が輝かしいだけに、いっそうつらくなる。

ガリアーノも、アレキサンダー・マックイーンも、グローバル化の勢いにのるフランスのコングロマリットに酷使され、人生を破滅させられたイギリス人だった。イギリスのエキセントリックな創造性にコングロマリット式量産は合わないのかもしれない。

生き方も含め、後世まで神話的に語り継がれるであろう天才デザイナー。

『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
9月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2023 KGB Films JG Ltd

韓国映画『ザ・ムーン』試写。「韓国映画×宇宙」にするとこうなる、という情緒に訴える感動ヒューマンドラマ。視覚効果もリアリティがあり、宇宙に放り出されたような没入感があります。

イデオロギーも国境も超えた人類愛という宇宙視点(スフィリズム)は、今こそ必要ですよね。宇宙から見ればアリほど小さな地球上での諍いの愚かしさ哀しさ… 

 

話は卑俗になりますが。

一部の銭湯などで更衣室に監視カメラがつけられていることが話題になっていました。防犯や、安全(急に倒れる人もいる)のためには必要、という論理もあるのでしょうか。不愉快な話ではありますが、日常のいろんな場面でどんな瞬間がスマホ撮影されているかわからない、という現状まで考慮すると、もう、なんというか、天の監視カメラがいつどんな時でもあなたの行動を見ている、というつもりで行動したほうが間違いがない時代になっていますね。

*月の写真はWikimedia Creative Commons. Thank you.

東洋経済オンラインに寄稿した記事に関し、誤解を受ける場面が発生しました。

原因はシンプルです。「ファッションに疎いと感じる読者のため」と配慮がなされ、編集部によりオリジナル原稿から多くの情報が削除され、本来の原稿が短く編集されているためです。

 

結果、「ファッションには抵抗がある」と感じる読者にとっては読みやすくなったのかもしれませんが、一方、関心の高い方にとっては、本来、必要と感じて入れておりました情報が省略されたために、あたかも手抜きのような誤解を生む場面が発生しています。相当の時間を割いて調べたうえで苦労した仕事に対し、この扱いは不本意で、残念と感じます。

公開と同時に(6月9日)、こちらにオリジナル原稿を公開しておりますので、よろしかったらダウンロードしてご高覧ください。ビジネスメディアには向かないクセが強めの文体もそのままです。

それでもはやり、趣旨にとって重要でありながらフォローしきれていない情報もあろうかと存じます。その際はどうぞご教示いただければ幸いです。

 

ブランド名やデザイナー名が並ぶだけで敷居の高さを感じるという一般読者と、その情報がないと手抜きないし無知ととらえるファッション関係者。両方を満足させることはなかなかに困難で、2つのバージョンを作り続けることがいまのところ無難とも感じています。

 

 

 

 

ECCIA(European Cultural and Creative Industries Alliance、欧州文化創造産業連合)という組織があります。イタリア、フランス、スペイン、スウェーデン、ポルトガル、ドイツ、そしてイギリスの7か国の欧州メンバーで構成され、ラグジュアリーセクターの共通の価値観をシェアし、協力しています。

英ラグジュアリー統括組織であるウォルポールが、各ECCIAメンバーのCEOを紹介し、それぞれの国のラグジュアリーセクターについて情報を発信しています。以下、翻訳していきます。原文はこちら、ウォルポールの公式HPをご参照ください。

シリーズの最初の回では、ニック・カーヴェルが、フランスのコルベール委員会のCEOであるベネディクト・エピネイさんにインタビューした記事を執筆しています。

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ウォルポール:コルベール委員会について教えていただけますか? 組織には何人のメンバーがいて、会員資格の要件は何ですか?

ベネディクト・エピネイ:1954年にジャン=ジャック・ゲランによって設立されたコルベール委員会は、公益を目的とした非営利団体です。現在、93のフランスのラグジュアリーメゾン、17の文化機関、そして6つのヨーロッパのラグジュアリーメゾンが平等に参加しています。すべてのメンバーが共通のビジョンを共有しています。「フランスのサヴォアフェールと創造を情熱的に促進し、持続可能に発展させ、忍耐強く伝えることで新たな驚きの感覚(センス・オブ・ワンダー)をもたらす」という私たちの存在意義に表現されるビジョンです。この存在意義が私たちの日々の活動の基盤となっています。

コルベール委員会に応募するには、国際的に著名なフランスのラグジュアリーブランドである必要があります。その他の基準は機密事項です。各応募は2名のメンバーによって推薦される必要があり、「最上級のもの」が認められるよう、長期間の審査プロセスを経ます。

ウォルポール:フランスのラグジュアリーセクターの特徴と特質は何ですか?

エピネイ:フランス国内外でこの産業がリーダーシップを発揮し、CAC 40(パリ証券取引所の主要指数)の38%を占めるにいたったのは、数百年にわたる歴史の積み重ねの結果です(パンデミック前は28%でした)。14世紀には、美食とギヨーム・ティレル(タイルヴァンとして知られ、シャルル5世のシェフ)の世界初の料理本の出版に始まり、続いて16世紀にはフランソワ1世の治世下でクラウンジュエリーの確立と宝飾業界の神聖化がおこなわれました。

この歴史は、私たちの名前の由来であるルイ14世の財務大臣ジャン=バティスト・コルベールにより受け継がれます。ジャン=バティスト・コルベールは、王室の工房を創設しましたが、フランス各地に散在するこの工房がラグジュアリー産業の前身となり、今日の私たちの基盤を形成しています。私たちは文化機関と同様に、職人技とサヴォアフェール(匠の技、専門知識に基づく創造性)への情熱を共有しています。今日では、現代性と創造性を注入しながら、業界の長期的な将来に向けて伝統を維持することが必要になっています。

ウォルポール:現在、あなたの国のラグジュアリーセクターにおける主要な話題は何ですか?

エピネイ: 私たちは地政学的、技術的、人材的、環境的に、多くの課題に直面しています。私たちは、メンバー間で競争がない分野、すなわち全体的な利益・関心にのみ焦点を置くことに決めました。次世代の職人の採用、持続可能性、およびフランスや欧州の規制によって業界が脅かされたときの業界防衛に関心を注いでいます。私たちはラグジュアリー業界の未来について団結して考えており、文化と工芸を紹介するために海外でイベントを開催しています。

ウォルポール:フランスのラグジュアリー産業の成長にとって、最大の課題は何ですか?

エピネイ: 直面している主要な課題の一つは、次世代の職人の採用です。私たちの役割は、若い世代にこの職業の魅力をアピールすることです。2022年にStation F(ヨーロッパ最大のスタートアップキャンパス)で開催された若者向けイベント「Les De(ux)mains du Luxe」の成功を受け、2023年12月に第2回目を開催します。4日間、12歳から18歳の若者、その親、教師は、コルベール委員会所属メゾンのサヴォアフェールのデモンストレーションを見学し、さまざまな職業を体験し、学校が提供するトレーニングコースを発見できます。今年は、より多くの若者にリーチするために、TikTokで初のメティエダール(職人技の芸術)・チャレンジを開始します!

第二の課題はエコロジカル・トランジションです。ラグジュアリー産業は模範を示す義務があります。原材料の調達、包装、新技術と新素材の使用から修理やアップサイクルにいたるまで、つまり製品ライフサイクルのあらゆる段階に、私たちのメゾンは深く関与しています。証拠として、コルベール委員会はすでに2つのCSRレポートを発表しており、最新のものはビジネス日刊紙Les Echosと一緒に配布されました。昨年11月には、ユネスコと提携してEarth Universityで初めてこうしたトピックについて発表しました。メゾンの代表とRSEディレクターが行動と考えを共有し、世界中の聴衆に向けて発表しました。最近では、Salon 1,618と提携し、8つのメゾンと共にラグジュアリー製品のライフサイクルに関する円卓会議を主導しました。

ウォルポール:年間を通じて開催する行事のハイライトは何ですか?

エピネイ:コルベール委員会はいくつかの実働委員会から編成されており、それぞれ年に2回会議を開き、その年の主要な課題を話し合います。各委員会はメゾンの代表が率いています。その後、その年の主要課題を推進するプロジェクトグループを決定します。こうしたことは、メンバーの希望や機会に応じて毎年異なります。

主要プロジェクトに加えて、コルベール・ラボのような毎年恒例のテーマもあります。コルベール・ラボでは、毎年、若い才能が、与えられた課題について考察します。また、ENSAAMA(国立装飾芸術学校)と提携したシャイア・コルベールは、過去12年間、マスター2の学生に、各メゾンから提案されたデザイン課題に取り組む機会を提供しています。

最後に、年間を通して、HR、ESG、コミュニケーション、公共政策などの専門分野に基づいて、メゾンの従業員のネットワークを導いています。優れた実践例について話し合う機会を生むと同時に、共同イニシアティブや特別なイベントも生まれています。例えば、イヴ・サンローラン博物館やカルティエ・ジュエリー・インスティテュートへの訪問、ブシュロンやブレゲによって組織されたヴァンドーム広場の遺産に関する会議などです。

ウォルポール:CEOとしての任期中で最も誇りに思った瞬間は何ですか?

エピネイ: 誇りに思った瞬間は数多くあります。過去3年間には多くの「初」がありました。新しいウェブサイト、反省と見通しツールを兼ね備えた年次報告書、2つのCSRレポートの発表、そしてユネスコとのEarth Universityへの参加などです。最も感動的だったのは、2022年12月にStation Fで開催された「Les De(ux)mains du Luxe」イベントで、3日間で4,300人が来場しました。3人の大臣も参加し、次世代に熟練の職業を見て体験する機会を提供できた、感動的な機会でした。

ウォルポール: ECCIAのような組織が重要である理由は何ですか?

エピネイ: 規制の数が増加している中、ブリュッセルでロビー活動を行うことは重要です。こうした規制は、私たちのメンバーのビジネスモデルに影響を与える可能性があります。ヨーロッパ全体のラグジュアリーセクターの集団としての声を伝えることが重要です。こゥした活動によって、コルベール委員会が創設メンバーであるECCIAは重要な連合となります。

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翻訳は以上です。ラグジュアリー業界になじみのない方のためにポイントだけお伝えしますと、以下の通り。

☆コルベール委員会とは?そのメンバーシップとは?

1954年に設立された非営利団体で、フランスのラグジュアリーブランドを中心に組織されている。メンバーシップは国際的に著名なフランスのラグジュアリーブランドに限られ、メンバーになるには厳格なプロセスを経る必要がある。

☆フランスのラグジュアリーセクターの特質とは?

数百年にわたる歴史があり、14世紀からのガストロノミーや宝飾品の発展に起源を持っている。ジャン=バティスト・コルベールが王室の工房を設立し、フランス全土に広がる職人技の基礎を築いたことが、現在のフランスのラグジュアリー産業の基盤となっている。

☆現在の主要な課題は?それに対して何をしている?

ラグジュアリー業界は、次世代の職人の採用や持続可能性、フランスおよび欧州の規制に対する業界の防衛など、多様な課題に直面している。それに対し、若者向けのイベントや職人技のプロモーション活動を通じて、次世代の育成にも力を入れている。

☆エコロジカル・トランジションに関しては?

ラグジュアリー業界はエコロジカル・トランジションの模範を示す義務があり、原材料の調達からアップサイクルまで持続可能な方法を追求している。

ECCIAの重要性とは?

ECCIAはヨーロッパ全体のラグジュアリー業界をブリュッセルで統合・代表する連合であり、規制の影響を受けるメンバーのビジネスモデルを守るために声を上げている。

(写真はPortrait of Jean=Baptiste Corbert 1666頃。Public Domain)

 

☆カキモトアームズ青山店の西岡さんが「今日の服にはコレです」と有無を言わせず作ったヘアです。

顧客の意見をきかず、むしろ提案、啓蒙する。そのくらいのサービスを提供してくれるからこそ高い価値がある、ということはいろんな場面で見られますね。

「ラグジュアリー」として高い価格を張れるのは、顧客の想定外を出してくる啓蒙型です。顧客の思い込みをむしろ打破して「こうきたか!」と驚かせることができるか。

エルメスも「マーケティングをしない」ことが知られていますね。

 

☆先日のカルティエ展覧会での驚きのひとつは、北野武さんの絵画がたくさん展示されていたこと。なにをやらせても一流なのですね。この方の、芸術の本質を見抜く力がよくわかるのがForbes Japan 掲載の記事

「本当の伝統のよさ」について語っているのです。以下、引用します。

「例えば、なんで俳句や短歌の七五調はこんなにリズムが心地いいのか。綾小路きみまろと川柳をやったとき、オイラは『5・7・5って素数じゃないか』と思ったんだ。5も7も素数。足しても素数。短歌もそう。5+7+5=17、5+7+5+7+7=31、どっちも素数なんだ。「古池や」に続く「蛙飛びこむ 水の音」の7・5は割り算では割れない。「古池や」以外の言葉じゃありえない。

で、奇数を足していくと二乗になる。1+3=4(2の二乗)、1+3+5=9(3の二乗)、1+3+5+7=16(4の二乗)。

これを映画に置き換えてみると、シーンを1秒撮って、次のシーンが3秒、5秒と足していくと、奇数だけ足して二乗になる。映像が倍返しみたいになって、心地よい「間」が生まれるんだ。漫才もそうでさ、奇数と偶数のかけ合いになると間が悪くなっちゃう。

尺の違いに着目して、居合いみたいに間合いを詰めていったら、単なる笑いじゃなくて二乗の笑いが爆発するかもわからない。いままで誰もつくったことがない「二乗のリズム」が映画に生まれるかもわからない。革新の発想だよね。」

まさか、俳句や短歌と映画のリズムの心地よさが「素数」でつながってくるなんて。こういう意外なことがつながる快感が、北野さんの描く絵にもあるんですよね。

 

そういえば、銀座に北野武さんの絵画がたくさん飾られている喫茶店があるんですよ(神田神保町にも支店があるそうです)。陶磁器もヨーロッパの一流ブランドがそろっていて、オーナーの趣味の良さを感じることができます。インバウンド勢に蹂躙されたくない(ゴメン)お店です。

Netflix「ブリジャトン」(日本語タイトルは「ブリジャートン家」になってますが、どう聞いても「ブリジャトン」、むしろ「ブリジャトーン」。「ジャー」で間延びはしない)シーズン3の後半も公開されて完結。ジェーン・オースティン世界がレトロにならないのは衣裳デザインの力も大きい。シーズン3のデザイナーはジョン・グレーザーでした。1810年代イングランドの基本形から大胆に飛躍した極彩色でキッチュ、パワフルな衣裳世界が展開。小物含め約7500ピースが使われたとのこと、ワクワクが全開です。

シーズン1が公開されたとき、衣裳について「婦人画報」で書いています。よろしかったら鑑賞のご参考になさってください。

 

斎藤幸平さんと対談のお仕事でした。駒場の斎藤さんの研究室にて。

大昔にトータル20年ほどお世話になった駒場はずいぶんきれいになっており、一方で昔のまんまという場所もあり、歩いているうちに眠っていた記憶の扉が開かれるような不思議な感覚がありました。

私はいったい何をしているのだろう。過去に夢見たこととのギャップをつきつけられ、こんな迷子感(と少しの絶望)に襲われたことはありませんか? 

セルジュ・ルタンスの「水」をコンセプトとするマタン・ルタンスのシリーズから「ポワン・ド・ジュール」(「目覚めのとき」)。

タイムの香りで安らぎとともに目覚める清らかなひと時をイメージしています。湿度高めの季節の朝をフレッシュで高潔な感覚に切り替えるルタンスらしい香り。日本では8月1日発売予定とのこと。
こちらは自宅に咲いたガクアジサイです。あたりの空気ををさわやかにする美徳つながりで。

東洋経済からご依頼を受け、最近のラグジュアリーファッションの動向をまとめてみました。

「『カルチャー帝国』築く高級ブランドのしたたかさ」というタイトルの記事になっております。

もちろん、ファッションに疎いという読者のためにやや煽情的?なタイトルになっており、文章も平易にトリミングされております。(それがよくないというわけではなく、一般読者にお読みいただくにはこのようなプロセスを経るのが通常ということかと)。

私のオリジナルのテキストは、こちらです。3700字くらいですが、情報量も多めです。ラグジュアリー業界を見る解像度(!)に慣れていらっしゃる方はどうぞこちらのオリジナルバージョンをご参照ください。

東京国立博物館 表慶館で6月12日~7月28日に開催されるカルティエと日本の関係を探る展覧会(タイトル↑)のプレスカンファレンスと内覧会に参加しました。

見ごたえのある展覧会でした。ジュエリーもたっぷり堪能できて、眼福眼福。

下の写真は、カルティエ財団に見出され、今回の展覧会で「日本五十空景」を披露した澁谷翔さん。少しですがインタビューできて、ラッキーでした

詳しくは後日、JBpress autographのレビュー記事で!

<6.27 補記>

JBpress autographにて記事公開されました。こちらよりお読みいただけます。

明治神宮の花菖蒲がピークを迎えています。紫、赤紫、ピンク、淡いパープル、ブルー、白のバリエーション。アントシアニンたっぷりで(笑)、眺めているだけで目がうるおいます。

池のほうでは蓮も見ごろを迎えていました。
近くにはパワースポットとして名高い清正井も。誕生日の参拝も済ませ、ファミリーに誕生日を祝ってもらいました。毎年、不老ぶりが話題になる荒木先生と一日違いの誕生日。荒木先生にあやかりたいものでございます!

ブルネロクチネリ2024年秋冬展示会。今回はウィメンズのほうに参加しました。

テーマは「ジェントル・ラグジュアリー」。寛容で優しく思いやりのあるラグジュアリー。森羅万象に対して敬意と思いやりを持ち、自分自身も大切に扱う。そんな普遍的な価値をクチネリは目指している、とのことです。

ウィメンズでは「アンテ・リテラム」というコンセプトも紹介されました。ラテン語で、言葉になる前の本質的な美のことです。ピューリッツア賞を受賞したアメリカの女性詩人、エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイの作品の中のフレーズ、「BEAUTY NEVER SLUMBERS (美は眠らない)」が着想源。展示会会場の本社ショールーム入り口にもこのフレーズが掲げられていました。文字や言葉になる前から存在する普遍的な「美」の本質を追求し、エドナのような知性と強さにあふれたエレガンスを追求する女性像がクチネリの理想なのだそうです。

寛容でやさしい普遍的なグレーのテイラード。

ソフト・サルトリアル。モヘアなどもともとある素材をアップデートして用いたテイラードのマッチングセット(なるほど、セットアップと呼ばずマッチングセットと呼ぶのか)。

やはりニットにこそクチネリの本領が発揮されており、職人の手仕事による細部が今回も圧巻でした。

クチュールニットは、機械編みをベースにして職人の手仕事を加えたニット。27時間かけて作られ72万5千円。

とはいえ、クチネリ真骨頂はなんといってもオペラニットのほうに。この立体的な細部の美しさときたら。34時間かけて一着が作られる。こちらは178万6千円で、もはやアートピース。

オペラニットやクチュールニットの価格に「ほお…」とため息をついているところに「エントリーモデル」のカシミアセーター22万円が紹介されたりすると「お手頃価格」に見えてしまう数字のマジック。お値段は万人に寛容というわけではありません(笑)。エントリーモデルでは、日本限定でモニューレ(装飾)が前の首元につき、クチネリのものだと一目でわかるアイテムだそうです。本来はモニューレが後ろにさりげなくついている「クワイエット」なものですが、日本限定でブランド誇示バージョンが作られるのはちょっと複雑ですねえ…。

アイウェアも日本の鯖江製で本格始動。メイドインジャパンを堂々打ち出されます。クチネリのブランドロゴは内側や留め金部分にさりげなく入ります。細部へのこだわりという点では、たとえばトップ写真のスカート部分にも注目です。レーザーでカッティングが施されております。

メンズのストーリーも聞きたかったのですが、今回は都合が合わず断念。時間がゆったり流れる優雅な空間でのひと時を楽しませていただきました。

 

新ラグジュアリーのコンセプトを実現するブランド、MIZENからBlack Collection 発表。

着物の世界では、「喪」のイメージが強く、そうでなければ「高貴な色」として敬遠されがちな黒を、あえてモダンなラグジュアリーとして表現した斬新なコレクションを楽しませていただきました。とくに紬で黒一色というのは珍しく、それを洋服に仕立て、洋服と着物における「黒」の二面性をフィーチャーして新しい世界を表現した挑戦には感銘を受けました。

写真はMIZENのミューズ、モリー(右)とアシスタントディレクターの裕さん。

今回からネクタイの受注もスタートしました。写真は螺鈿のきらきらがチェック柄になっており、見たことのないレベルの美を表現している逸品。アイフォンでうまく美しさが写し出せないのがもどかしい。同行した方が一目ぼれして瞬間で購入して、びっくり。エルメスのネクタイ3本くらいの価格です。世界のどこにつけていっても注目を浴びること必至。

セルジュ・ルタンスの新作「鉄塔の娘」。バラをフィーチャーした清々しく好感度あふれるフレグランスです。鉄塔=エッフェル塔、ですね。パリのエッフェル塔が似合う女性のイメージ。意外でしたが、長いキャリアをもつルタンスが王道的なバラを手がけるのは初とのこと。フレデリックマルの「ポートレート・オブ・ア・レディ」以来、久々にハマりそうな華やかなバラです。日本では今秋発売予定。汐留の資生堂本社でたっぷりレクチャーを受け、ひととおり試香させていただきました。ありがとうございました!

エストネーション秋冬展示会。斜め上のひねりを加えた多様な世界観を楽しませていただきました。 ソニアリキエルが復活していたことにも喜び。「セルフポートレート」のデニムツイードのセットアップも好みど真ん中です。洗濯できるかどうかみたいな実用の価値判断超えて、ただ純粋にときめく世界。

また、予期せぬ出会いだったのは、キャスウェル・マッセイのフレグランス! 創業1752年。アメリカ最古の香水で初代大統領ジョージ・ワシントンも愛用したというナンバー・シックスも。クラシックで重厚、コンサバな香りがよい。エストネーションで取り扱いが始まるのでマニアは要チェックです。