ジェレミー・ハケット氏とのトークショー、楽しい雰囲気のうちに無事終了しました。

休日もアンティークショップを回ったり、写真を撮ったりして仕事のために過ごしている勤勉なハケット氏の姿をうかがうことができた、貴重な機会でした。アルマーニばかりではなく、やはり仕事を成功させるには100%以上の献身が必要なのですね。快楽主義的に見える仕事ほど、禁欲的に働かなければ。

ご来場のみなさま、ハケット、ヴァルカナイズ関係者のみなさま、ありがとうございました。

Hackett7
またどこかでお会いしましょう!

Jeremy Hackett,"Mr. Classic"(ハケット氏が英「インデペンデント」に書いたメンズファッションに関するコラム集。豪華写真集でもある)ほか新聞その他のインタビュー記事で、ハケットというブランドのリサーチ。今日のトークショーに備えての準備です。つけ刃だけど。

Hackett_3
気がついたことを、以下ランダムにメモ。

[E:diamond]「1840年に詩人のエドワード・フィッツジェラルドが書いた手紙にこんな言葉を見つけた。<オールド・イングランドなんていう場所はどこにもないし、これまでも存在したことはなかった>。だが、パリの右側には<オールド・イングランド>というイギリス好きのジェンツのためのショップがある……」

サヴィルロウのセールスマンだったジェレミー・ハケットも、アメリカのラルフ・ローレンも、このパリの店主も、どこにもない「オールド・イングランド」からインスピレーションを受けてメンズワールドを展開しているのですね。ハケット氏は、NYタイムズのインタビューには「私たちはオールド・イングランドで、ラルフはニュー・イングランドだと思っていますが―どちらも昔の文化から影響を受けています」と答えているが。いずれにせよ、どこにもない古き良きイギリス文化がソースになっている。カントリー・ミーツ・シティの夢の国。これ、男のファッションを考えるうえで、とても興味深い事実。

[E:diamond]ハケットが展開する世界は、ベントレー、ポロ、自転車、ピクニック、ボウタイ、スパニエル犬、トップハット、そしてオーダーメイドの旅行鞄……。こういう世界に連れて行かれ、そこでどっぷり迷い込みたい現代の男のためのファンタジーワールド、といった印象。

[E:diamond]ハケット氏がよく使うキーワードは "our clothes wear in not out".(着古すのではなく、長く着るほどによい服)、"evolutionary rather than revolutionary"(革新よりもむしろ進化)

[E:diamond]ラルフ・ローレンやトミー・ヒルフィガーが展開するアメリカナイズされた英国服との違いは……。少なくとも、アメリカにはない英国性の象徴としてわかりやすいのは、ボウラーハットと巻き上げられた傘。

[E:diamond]カジュアルブームがひと段落して、さらに「ヘリテイジを創出する」という今のトレンドにぴたりとあうのが、ハケットをはじめとする英国ブームなんだろうか?

[E:diamond]ハケットのスタイルは、イギリスの上流階級のなかの、「スローンズ」「スローンレンジャーズ」と呼ばれるスノビッシュな人種がよく着ているスタイルだが、実はこの階層は、ハケットの顧客層ではない。

[E:diamond]1992年、リシュモングループがハケットを買収。2006年、スペインの投資会社トレアルが買収。その後、会社の規模が世界に飛躍的に拡大している。いまはスペインの会社の傘下ということになる。

[E:diamond]ハケット氏は養子だった。仕事でパーフェクトジェントルマンを追求しているが、プライベートでもそうなのだ。最近、オーストラリアで実の母と会い、探し求めてきたイングリッシュエレガンスを母の中に見出した…。

[E:diamond]成功の秘訣は、ヘリテージ(本物であろうと、創出されたものであろうと)と、ノスタルジアとの境界をうまく歩くこと。

[E:diamond]ハケットはブリティッシュ・アーミーのポロチームや、ル・マン、ボートレースなどジェンツのライフスタイルに関わるさまざまなことがらもスポンサードしている。あんなこんなのばらばらなことを、一つのイメージにまとめあげる仕上げの要素が、ジェレミー自身のパーソナリティかな? これができるかどうかは、その人がアートな要素をもっているかどうかにかかってくるのだけど。

後はいったん情報を全部忘れて、リラックス&オープンマインド&ハブ・ファン!ね。 See you at Vulcanize London this evening!

9月23日発行のThe Nikkei Magazine Style、特集「男のお洒落には、どうして論理が必要か?」 LEON編集部に取材を受けた記事が掲載されています(とりとめなくお話したことを、編集部がまとめてくれました)。機会がありましたらご笑覧下さい。

Img237_4

昨日はテレビ大阪の深夜番組の取材で、コッドピースについて、また男の股間の歴史について、マジメに語るという仕事。エスモード学園にて。

8271

いまも完全には廃れてないのですね、コッドピースは。あのトム・ブラウンがコッドピースつきのスーツをランウエイで発表して、誰もがどう評していいかわからなかったのも記憶に新しいですが。

「時計仕掛けのオレンジ」では、ギャングたちがjelly mouldのときにコッドピースをつけたりするし、アメコミのヒーローもつけてますね。

っていうような、「左右のつなぎ目に困ってつけてみました」起源から、現代の復活にいたるまでのコッドピース変遷のお話。

そんなこんなのお仕事も、二年ほど前にちょこっと参加した『コッドピース お股の袋の本』という本がご縁なのですね。世界でほぼ唯一のコッドピース研究本。表紙がコレなので思わず失笑してしまうのですが、松岡正剛や会田誠やみうらじゅんも参加しています。私のパートは、「香織、男の下半身を語ります!」という東スポノリのタイトル。この本、全体的にゆるいくすぐったい感があるのですが(それがまあ、長所でもある)、このマヌケなものをマジメに語ろうとすると、どうしてもこうなってしまうのかなあ。

でも今、タイムマシンに乗れたとしたら行ってリサーチしたい時代が15~16世紀かな。ヘンリー8世やらカール5世やらのコッドピース美男の方々に会って、「そんなもんつけて後世まで残る自分の肖像画を描かせるなんて、羞恥とかテレとかはないんですか」? と真面目にインタビューしてみたい。当時は恥ずかしい代物じゃなかったというのが私の推測なんだけど(恥ずかしさは、社会的なもの)、文化人とされる人たちは、「あんな恥ずかしいものつけるなんてどうかしてる」みたいなことも書いてるのよね。どっちなんだろうな。

J-WAVEのHello World、「夏期講座」にて、大学で教えている「ファッション文化論」のさわりを話してまいりました。U-StreamやTwitterやメールでの視聴者の皆さんからの投稿を眺めつつ質問にその場で答えるというライブな緊張感のなかでしたが、DJ TAROさんのプロフェッショナルなナビゲートがすばらしく、あっというまのモノ足りない90分。楽しいお仕事でした。たくさんのリスポンスに感謝します。

Dj_taro

DJ Taroさんの頭の回転の早さと鋭い観察眼(ペディキュアの色までいつのまにチェックを!?)に脱帽。

http://www.j-wave.co.jp/blog/helloworld/2012/08/post_549.html

大学に湯山玲子さんをお招きし、トークショー形式の特別レクチャー。「ファッションのお見立て」と題し、マリー・アントワネット、ブリジット・バルドー、着物、氣志團とエグザイル、男の娘、女子アナなどのファッションを、今の問題に見立てて語り倒すという趣向。

湯山さんのマシンガントークに学生たちは圧倒された模様。ふんだんな情報量とぶっとびながらもまっとうな解釈の数々に、よい刺激を受けたことでしょう!(^^)!

コミュニケーション力を上げるための、湯山さんからのアドバイス。「毎週、違う人をお茶かご飯に誘い、二時間向き合ってその人からお宝を引き出せ」。コミュ能力は自分に負荷を与えて鍛えなくては向上などのぞめないのですね。私も意識的に実行しなくては。

湯山さん、濃ゆくて刺激的な時間をありがとうございました!

Yuyama_1_4

ヴァルカナイズ・ロンドンでのトークショウへご来場のみなさま、スタッフのみなさま、ありがとうございました。

能天気な私が当初想定していた方向とは180度違うシリアスな国家論の話が展開されたりして内心焦りつつ、でも逆にそういう話を好んでくださったお客様が熱い共感コメントを寄せてくださったり。正直、話したいことを話しきれないまま持ち帰ったところもあります。でもそれがかえってこの日のお客様にはよかったのかなと内心ぐるぐるしております。臨機応変にあらゆる状況に対応できなきゃなあ…と反省中です。

終了後も、ご来場の方ひとりひとりとお言葉を交わすことを目標にしていましたが、シャイなお客様はなかなか先方からお声をかけづらいままお帰りになったようで、こちらの方で積極的に「場」を開いていく努力が足りなかったかと、この点も心に引っかかっています。

もろもろの反省点を今後に生かすべく、いっそう意識的な努力を続けます。成功とは失敗に失敗を重ねてなおあきらめないこと、by チャーチルの言葉を励みにしつつ。

Dscn6325

もうひとつは、湯山玲子さん『ビッチの触り方』刊行記念トークショー。恵比寿のリキッドハウスにて。湯山玲子さんの司会のもと、ギンザ編集長の中島敏子さん、作家の岩井志麻子さん、放送作家の町山広美さん、演劇ジャーナリストの徳永京子さん、Vogue girl クリエイティブディレクターの軍地彩弓さんという濃厚なメンバー。

会場は立ち見のお客様もずらりの熱気でむんむん。おしゃれな方が多かった。ライブのような感じで、7時から延々と10時過ぎまで。岩井志麻子さんの過激なエロトークで爆笑の嵐の連続で、ほとんど笑いっぱなし。お題はいちおう、岩井志麻子前後、木嶋佳苗、塩谷瞬、震災、女子アナ、etc. 笑いにあふれているからって内容空疎なわけじゃなく、しっかり内容と言葉が充実していたのが圧巻だった。名せりふもぽんぽんでてきて。志麻子先生サイコーでした。どんなテーマになろうと、かならず強引に○○○の話にもっていき、会場を爆笑の渦に巻き込んでまとめてしまう手腕がすばらしい。しかもエロトークがイタくないのね。カラッと明るくて、ハッピーな雰囲気が盛り上がるエロ。他のメンバーもそれぞれに個性的でチャーミング。自由自在にパワーを発揮してフルスロットルで仕事に生きている女っていいなあ。

その後も話し足らず、控室でトークの続きをやっていたらば結局午前様に。

ご来場のみなさま、スタッフのみなさま、メンバーのみなさま、楽しい一夜をありがとうございました! 

5211

<追記>

こんな記事として紹介されてました…。

http://www.cyzowoman.com/2012/05/post_5918.html

朝、金環日食をご近所の皆様方とともに熱狂して鑑賞した昨日は、濃密なトークイベントが2件。

Yama_15

まずは、大学にWWDジャパン編集長の山室一幸氏をお迎えし、「ファッションジャーナリズムの最前線」というテーマで特別講義をおこなっていただきました。

レディガガとLBGT(レズビアン・バイセクシュアル・ゲイ・トランスジェンダー)のマーケットの可能性や、アニメファッションの今後の重要性、そしてファッションジャーナリストとエディターの違い……。次から次へと機関銃のように飛び出してくる的確な比喩、毒舌、ぎりぎりエロいたとえ話、業界内輪話にエスプリに満ちた話。面白すぎでした。あっという間に時間が過ぎてしまったのが名残惜しい。学生たちも第一線で仕事をする人のエネルギーと 情熱のシャワーを浴びて、おおいに刺激を受けた模様。山室さん、ありがとうございました!

Yama_14

詳しい内容は、白熱教室第二弾として、後日、OPENERSで掲載されます。お楽しみに。

17日付朝日新聞ファッション欄「伝統×最先端 英国ブランド」。英国ブランドはなぜ強いのか?という朝日新聞の高橋牧子記者からの質問に、こんな風に答えてみました。BLBG田窪社長のコメントも。

Asahi_517

(昨日)夕方からはGQ×ラルフローレンのトークショー。

祐真朋樹さんによるスタイリング、4パターン(ブレザースタイル、スーツスタイル、半ズボンカジュアル、タキシード)それぞれにつき、鈴木正文編集長と私が背景の物語やらそれにまつわる文化の話やらなんやらを語る、という趣向。

舞台裏で見ていた祐真さんによる「着付け」。モデルがみるみる変わり、中からオーラのようなものが放たれていくのを目の当たりにした。男の服はただぼんやりと着ればいいってもんじゃないのですね。野性的なスタイリングに見えて、細部の1センチ、2センチの違いが大きな効果の違いを生む…。プロのスタイリストがなんのためにいるのか、はっきりと認識した瞬間。

51611

とてもいい雰囲気のなかで盛り上がり、会場のお客様やスタッフの皆様と一緒に心から楽しめたひとときになった。ご来場のみなさま、きめこまかく準備を整えてくださったスタッフのみなさま、ありがとうございました! 

51612

鈴木編集長が着こなしているのは、ラルフローレンのレディスのブレザー、時計はあいかわらず両腕使いでした(~_~;) これが鈴木スタイルになってるのですね。

トークショーの模様と内容は、GQ誌面でも掲載されるそうです。

GQ×ラルフローレン トークショーのための打ち合わせ。ラルフローレン表参道店にて。

GQが提唱する「ジェンツ・スタイル」のジェンツというのは、本来のジェントルマンとは微妙に異なるニュアンスをもつ。どのように違うのか。それがラルフローレンとどのようにつながってくるのか。というようなお話にも本番では触れつつ。祐真さんによる具体的なスタイリングの例を見ながらジェンツ・スタイルのエピソードやらエッセンスを語っていくことになりそうです。

編集長の鈴木正文氏と、祐真朋樹氏。鈴木さんは人を楽しませる個性的なスタイルで有名な方で、ポイントの一つは「レディスから選ぶ」こと。トークショー当日もラルフローレンのレディスのジャケットを鈴木流に着こなして登場する予定だそうです。

5112

それにしても表参道店はラルフローレンのファンタジーを完璧に反映させたうっとりものの世界。セクションごとに丁寧に案内していただき、あらためて彼のビジネスセンスに敬服する。それぞれの部屋のインテリアと服と小物を詳らかに見ていくと、アメリカの中~上層社会がさらにどのような階層からなっているのか、どんなライフスタイルを好むのか、うっすらと見えてくるところが圧巻。

歴代ウェル・ドレッサーの肖像が壁にずらりと飾られる、メンズファッション史が好きな人にはアドレナリン噴出必至の部屋。

512

新年度の「ファッション文化史」開講。午前の日本語版、午後の英語版、あわせて500人近い受講者。ほとんどの新入生は「大学でファッションって、何やるのかな~? ファッションチェックでもしてくれるのかな~? かっこよくなれるかな~」という物見遊山気分で来ている。ほかの専門的な講義よりもラクに単位がとれそうだしね。

そういうニューカマーに対し、例年は、「ファッションチェックやスタイリングという分野とは、カテゴリーを異にします」とお断りするところから始めていた。自分の本でも「ファッションチェックはやりません(できません)から」と何度も書いている。軽視しているのではなく、大学で扱う学問とは違うジャンル、ということで自分で一線を引いていた。

でも、今年は「脱皮」の年でもあり、自分が勝手に決めた枠を取り払ってみることにした。彼らの偏見にまず乗っかってみて、「じゃあ、ファッションチェックから、やってみようか!」と始めてみたところ、学生が挙手して壇上に出てきてくれ、自分の装いを語ってくれて大盛り上がり。

そこから「こちらの土壌」に引っ張っていくのもアリね、と実感できた貴重な体験でありました。

にしても、無意識のうちに、自分に課している「枠」というのが、実はずいぶん多いんですよね。それに気づいて、少しの勇気でもって取り払ってみると、世界の見え方がちょっとだけ違ってくる。

写真は、できたてほやほやの大学図書館。まだ中には入れないが、外観はなかなか素敵。景観や環境は、思考や感覚に知らず知らず大きな影響を及ぼしている。

4131

鈴木正文編集長のもとでリニューアルしたGQ5月号、本日発売です。

「クールな男」論、ワタクシも恥ずかしながら「ブランメル立ち」して、2ページにわたり書きつくしておりますよ。読んで頂戴。

Brummelldighton1805_upper

どや(^_^;) なブランメルポーズね。

Photo

和光での鈴木健次郎さんとのトークイベント。当初予定されていた定員をはるかに超える80名近いお客様にお越しいただき、大盛況となりました。

健次郎さんのお話は使命感と熱を帯びていて、人を引き込む力がある。こういう第三世代のテーラーが出てきたことで、モノづくりに携わる他の業界の若い人にも好もしい影響が及ぶのではないかと思う(というか、そうなることを願う)。

ご来場のみなさま、和光のスタッフのみなさま、神戸ブランメル倶楽部スタッフのみなさまに、心より感謝申し上げます。

Wakou

(写真は最前列で熱心に聴いてくださったFB友、稲葉誠さん撮影。稲葉さん、ありがとうございました!)

☆終了後、神戸ブランメル倶楽部のメンバー数人と二次会。「バカ話」ではあったのだけれども、ヒップな真実がちりばめられていて、「流してしまう」にはあまりにも惜しかったので、メモしておきたい。

1.「ザルツブルク生まれ」にはかなわない。

伝説の色男はいろいろいるけれど、ザルツブルク生まれの男は最強である。モーツアルト、カラヤン、ツヴァイク……。どんなに伝説を積みかさねても「ザルツブルグ生まれ」のかっこよさにはかなわない。

2.釣りの前に一杯ひっかけて「自分の気配を消す」と魚がよく釣れる

釣りの話として出てきたんだけど、ほかのことにも言えるかもしれない。釣るぞ!という意欲満々のときは、決して獲物は引っかかってこないものだ。むしろ、自意識とか自分の自我を消してしまったほうが、収穫は多い。

3・「ファン」が多いギタリストよりも、実は地味に見えるベース奏者のほうが艶福家。

音楽界ではよく知られた真実なのだそうである。「ギタリスト的」な人、「ベーシスト的」な人、あらゆるジャンルに言えること。わが身および周囲を見渡して納得。

延び延びになっていた『スーツの神話』の電子書籍版、仕上げに没頭中。ちょうど干支一回り前に出した「デビュー作」で(ブランメルに出逢ってしまい、資料を集めはじめたのは、さらに干支二回り前)、気負いもあってハズカシイところも多いのだけれど、そのときの熱気のままにしといたほうがいいのかな。とかなんとか迷いつつ改訂をすすめる。フリーで使える図版が増えたこともあって、図版を大幅に増やそうとしている作業の中で、「そうだったのか!」の発見も多い。

たとえば、チェスターフィールドコート。これが画期的だったのは、ヴェルベットの襟というよりもむしろ、「ウエストの切り替えがない」点。それまでのオーヴァーコートにはすべてウエストの切り替えがあった。

また、ロンドン大火(1666年)でロンドンの家屋の85%が焼失した後、木造住宅を禁止する規制が敷かれていたことも初めて知った。ペスト→ロンドン大火のあと、チャールズ2世が衣服改革宣言を出して「スーツのシステムが誕生」するわけなのだが、これまでは「災厄続きはだらしない宮廷への天罰。まず服装から改めるべし」というような視点でこの宣言をとらえていた。でも、それだけじゃあるまい。中世のロンドンが焼失し、新しい建築が増えて、それにふさわしい新しい服が着たくなった・・・てこと、あるかもしれない。

などなどの発見(アタマのいい方には「何をいまさら」なあたりまえすぎる事実)を加えてばかりいると遅々として進まないのだが、暑苦しいかもしれない熱気をそのまま+発見事項追加改訂バージョンを、近日中に、電子書籍の形でお届けしたいと思います。

アルマーニ×OPENERS の仕事。レイナさんにヘアメイクをしてもらい、西麻布のライブラリー・バー「テーゼ」でアルマーニの春夏のジャケット&スカートを着用して撮影。一日がかりだったけど、スタッフの皆様のきめ細かい配慮のおかげで楽しくあっという間に時間が過ぎた。ありがとうございました! フォトギャラリーに私のエッセイがついて、来年2月末にアップされます。

12141

「テーゼ」はツボにはまる本があちこちにたっぷりと置いてある図書館のようなバーで、とても心ひかれた。シングルモルトにアートな本。これ以上相性がよいものがあるだろうか。こんどは営業中にぜひ伺いたいと思います。

12143

着用したジャケットについていたボタンは、「ミカド・ボタン」と呼ぶそうである。棒状のボタン。ヨーロッパでは、あのポッキーも「ミカド」という名前で売られている。棒状のもの=ミカド。なぜに。

Almani_openers

上が「ミカド・ボタン」のジャケット。カッティングと素材がすばらしく、柔らかいのに着るだけで背筋がすっと伸びます。

◇以下パ―ソナル・メッセージ。これから白内障の手術を受ける友人に、励ましの意図をこめて贈ります。手術の成功を祈ってます。

http://www.youtube.com/watch?v=4E7XHOotTX0&feature=related

◇ヴィヴィアン・ウエストウッドに関するレクチャーをしていて気がついたこと。70年代のパンクの女王を「卒業」したあと、アート・歴史志向の「デザイナー」に移行し、そして21世紀は地球環境問題にも積極的に意見する社会派クリエイターへ進化した人、と漠然と理解していたのだが。’DO IT YOURSELF’を解くココロ、ブリコラージュ(ありあわせのもので間に合わせる、器用仕事)の精神は、パンク時代からずっと一貫して持ち続けている人だ。

意外なところに聴衆の反応が大きかった。ヴィヴィアンとマルカム・マクラーレンとの間の息子、ジョセフ・コレが創設したエイジェント・プロヴォケター(高級ランジェリーブランドです)のキャンペーン写真である。たしかに、エイジェント・プロヴォケターが作り出す世界は、私の好みのど真ん中ではあるが、眉をひそめる人も多いかもと思い込んでいた。日本では話題にならないし。

大好きな写真はたくさんあるのだが、そのひとつがこれ。エロティックで退廃的でリッチでゴージャス。中世の宗教画みたい。

Ap2_2

ヴィヴィアンの名言から。

The only reason I’m in fashion is to destroy the word ‘conformity’.(「私がファッションの世界にいるただ一つの理由は、<調和>という言葉をぶちこわすためよ」)

You have a much better life if you wear impressive clothes. (「強い印象を与える服を着れば、人生はずっとよくなるわ」)

就活のために、無難な真っ黒スーツを着てみんな同じような規格におさまっている学生たちに向けて、暗黙裡に届けたいメッセージでもあり。

◇恒例のOPENERSメリーグリーンクリスマス、今年も参加しました。

http://openers.jp/culture/merry_green_christmas2011/02.html

昨日は、大学にテイラー信國太志さんをお招きして、トークイベントを行いました。

1257

ファッションスクールの名門、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズでの教育方針や、「デザイナー」から「テイラー」へ転身した理由、デザイナーとテイラーとの違い、間近に見た一流デザイナーたちの具体的エピソード、「スタイリスト」の仕事と役割、クリエイティヴィティとは何か、「ファッション」とは究極は「人」であるということ、概念を見るのではなく、美しいと思ったものを心で見るということの大切さなどなど、話は尽きず。モードの最先端と、仕立ての地道な世界の両極を経験してきた方ならではの、静かながら熱い信念に貫かれたことばに、感銘を受けました。

ファッションとは、自分を飾っていくことではなく、どんどんそぎ落としていくこと。あるがままの自分の姿に「気づく」こと。その点で、仏教とも通じる点があるという話がずっと尾を引いています。「本物のかっこよさ」とは、究極はそこなのではないかと。めざすべきは、やはりそこしかないのではないかと。行きつくまでに、ぐるぐると回り道をしなくてはならないのだけれど。

さらに詳しい内容は、後日、ウェブマガジンOPENERSにて。

1253

信國さん、ありがとうございました!ご来場のみなさまにも感謝します。

三陽山長2012年春夏の展示会@三陽山長銀座店に出かける(昨日)。

11305

オールウェザーコレクションや、ドレススニーカー(グッドデザイン賞受賞)など、日本のビジネスマンの事情を考慮したやさしくりりしい靴の数々。デッキシューズも中敷きが洗えるようになっていたりと、日本らしいきめ細やかさが光る。

11303

下段の靴、スクールシューズみたいな装飾は取り外しも可。これを「キルト」と呼ぶそうです。当初は「ほこりよけ」であったそう。

もっとも心ひかれたのは春夏用のスエード。冬の靴という先入観があったけど、春夏にももちろんOK。スエード靴のお手入れ講習もおこなわれていたので、じっくり教えていただく。風合いを長持ちさせるには、はき始める前のケアが大切。

1. 形のいいシューキーパーを入れる。

2.  スエード専用のブラシ(真鍮ブラシ)で、毛を起こすように、逆立てながらブラッシングする。もともとスエードとは毛を痛めて(!)つくった素材。遠慮せず、逆立てて可。

11307

3. ムートンブーツには、Splash Brushを使い、同様に。

11308

4.  スエード専用の栄養スプレーをかける。この成分はほとんどオイル。毛が起きたところに油分を補うので、これが浸透し、発色がよくなる上、水をはじく効果も得られる(!)。色抜けも防止できる。ちなみに、スエードが白茶ける原因は、防水スプレー。これが乾燥して白茶けてしまう。

11309

113010

(この写真は、スエードが水をはじいているところ。手品みたいで、おもわず「をを!」と)。以上のケアを、まだ靴が新しい段階からやっておくことが望ましい。万一、すでに白茶けてしまった場合、色を入れる染料も市販されているので、それで補うとよい。

…ということでございます。靴は、心を込めて手入れをすれば、それにふさわしい場所へ連れて行ってくれることであなたに報いてくれる。はず。

ジェームズ・ボンドはなぜ半世紀以上も文化的・商業的影響力をあたえているのか?に関するレクチャー。材料が多すぎてなかなかまとめきれず、しばらく延期してきたが、

I shall not waste my days in trying to prolong them. (時間をだらだらと引き延ばそうとして、かえって時間をムダにするようなことはしたくない)

という原作者フレミングの言葉に行き当たって、それもそうだな、とけりをつけた格好。締め切りをひきのばしたって、その間の時間が空疎になりがちなことは体験済み。やたら長生きだけしようとしても、その間、濃く太く生きなかったらかえってその時間は空しいだけ…という気もする。もちろん、濃く太く長く生きられれば、それにこしたことはないとは思うが。

ジャマイカの別荘で10年間だけ小説を書く。一年に一作ずつ、確実に残るヒット作を。だらだらと引き延ばさず、短期集中決戦でそれをなしとげたフレミングは潔くてかっこいい。

ボンドワールドは、マッチョでアナクロな、偉大なるマンネリズムでできている。男が幻想の男らしさにひたれる数少ないファンタジ―世界、というのがやはり根強い人気の秘密のひとつかなあ。永久に立ち入れない、というところが探究心をかきたてますね。恋愛と同じ?

そのほかに好きな(というか、印象に残る)フレミングのことば。

A woman should be an illusion, (女は幻想であるべきだ)

You only live twice.  Once when you are born and once when you look death in the face. (生まれるのは二度。この世に生をうけたときと、死に直面したとき)

後者のぴたりとくる訳語を模索中…。映画のタイトルでは「007は二度死ぬ」だったけど、原語は逆なんだよねえ。

新作はSkyfall 、悪役がハビエル・ハルデム、ますます楽しみ。

タイミングよく「ジョニー・イングリッシュ・リボーン」の試写状も届く。日本語のタイトルが「気休めの報酬」。久々に笑えるナイスな邦題!

Jonny_english_reborn

予告編を見たが、ローウァン・アトキンソンの髪が白くなって老けたなあ…という印象。これも「不老不死」のボンドに対するパロディか?

そんなこんなの調査をしているうちに、過去に自分が書いたボンドに関する記事の中に、調べ方が不足していたための間違いを発見。恥ずかしい。申し訳ない。消え入りたい。ホント、どれだけ研究しても enough というレベルにいきつけない。

<追記>

‘You only live twice’ に関し、ボンドマニアの友人がさっそく解釈のヒントをくれた。「一度目の生を受けたときは自覚もなく、危機を感じて初めて『生』を意識する…」ということでは、と。

それでようやく理解できた!つまりこういうこと?

『生』を感じられるのはたった二度。一度目は生を受けた瞬間。二度目は死に直面したとき。でも、一度目は自覚がないから、実は本当の意味で『生』を感じられるのは、死に直面したとき、ただその時一度のみである。

そこからさらに解釈を発展させれば、生きていることを実感したければ、死と隣り合わせのつもりでいけ、と。

そこまでは読みすぎかもしれないけど(笑)。

この解釈で ’only’ の意味もくみとることができた。ありがとう!

◇芦田多恵さんがMiss Ashidaブランドを創立して20周年。ということで祝:記念インタビュー、Jun Ashida本社にて。

コレクションのときには毎回お会いするのだが、長い時間をとってお話を伺う機会がなかなかもてずにいたので、じっくりとデザイナーの考えを聴けたことはとても意義深く、なんといっても楽しかった。

経済問題、格差問題、地球環境問題、政治的問題、その他もろもろの深刻な問題が山積する時代において、ファッションの役割をどう捉え、どのように取り組んでいくのか。

震災後にあらためて確認できた、顧客の方々との絆。

転機となったクリエーションや、デザイナーとしての立ち位置の自覚。服を作ることの意義。舞台で自分の作品を観るときの感覚。ファミリーや社員の方々との絆。などなど、興味深い話はどこまでも尽きず。

詳しい内容は、次回発行のJA誌にて。お楽しみに!

◇次の取材までの間、少し時間があるので、さっぱりめの「ウォッカコリンズ」(←「酔わないお酒」と注文したらこれが出てきた)などを飲みながら待っていたいつものバーで、急遽キャンセルの連絡が入る。「では、容赦なくいきますね」とにやっと笑ってバーテンダーが作ってくれたのが、「007 マティーニ」。

114_5

通常のドライマティーニと若干レシピがちがう。「カジノ・ロワイヤル」の原作にレシピがあるそうだが、ジン、ウォッカにヴェルモットを加え、シェイクして、薄く大きく切ったレモンピールを入れる。ふつうのドライマティーニが甘くやさしく思えてくるほどのタフで骨太な強さで、まさしく、容赦せず挑んでくる感じ。ダニエル・クレイグのボンドは映画のなかでこれを六杯あおった。

サカナに出してくれたのが、The Gentlemen’s Clubs of London。ロンドンのほとんどの紳士クラブの内部を撮影した貴重な写真集である。007マティーニの友には最高。(英国紳士文化の専門家ということになっている)私ですらもってないレアな洋書の古書が、いつもなぜかここにくるとさりげなく出てくる。うれしくて、少しくやしい(笑)。

昨日、シャネル社社長リシャール・コラス氏による「リュクス・セミナー」第4回目に参加。明治大学商学部ファッションビジネス特別講座の一環。以下、ほとんど自分のための備忘録のようなものだが、個人的になるほど、と思ったことの概要をメモしておきます。

今回のテーマは「無形資産」。数値として変換できない価値が、実は消費者の頭の中に存在していて、これがブランドの価値を決め、売り上げを大きく左右する。

では、その価値を具体的にどのように測るのか?

その方法の一つとして、第三者に依頼しておこなう、ブランドイメージの調査がある。ラグジュアリー製品となると、とりわけ「消費者がどう見ているか」というブランドイメージが重要になるのだ。

しかも、ブランドイメージというのは生き物であって、定期的・継続的に見ていく必要がある。その意味では健康診断のようなものでもある。そして、製品とは無関係であっても、なにか企業回りに大きな「失敗」があると(たとえば、社員によるセクハラなど)、とたんにイメージがダウンする、というデリケートなものでもある。ゆえに、イメージのファクターは、「こういうイメージを消費者に届けたい」という戦略だけで決まるのではなく、外からの要因にも大いに左右される。

ラグジュアリー・ブランドに関するイメージ調査に関しては、どんな人に聞くか、というターゲットも重要になってくる。ランダムに聞いても意味がない。具体的には、東京圏・大阪圏に住む24歳~60歳の女性、200名で、ラグジュアリー製品のレギュラーユーザー。ラグジュアリー製品年間購入100万円以上の独身女性で、年収1000万以上、など具体的に対象を決める。

ブランド・エクイティの3つの要素として、Saliency (際立っていること。一番最初に思い浮かべてもらえること=Top of mindにくること)、Value、Strength(イメージの強み)がある。Saliency + Value + Strength、この総和を3で割ったものが、ブランドエクイティ。

この結果を見て、ブランド側は、長期・短期の戦略を立てていく。期待に添えていないなら、それを改善する努力をし、誤解があって価値が伝わっていないなら、それを伝える努力をする。data→改善努力→data→改善努力…の繰り返し。

……という総論があり、具体的に「ラグジュアリーブランド全般に関して」、「既製服に関して」「ハンドバッグに関して」「フレグランスに関して」「メイクアップに関して」「時計に関して」という各項目のもと、細かなデータの結果を示していただきながら調査結果を教えていただいた。個人的には、どのような「ことば」の分類でもって消費者のアタマのなかのイメージを調査をしていくのか、ということがおそろしく興味深い講義であった。

[E:ribbon] Image Dimension として、Prestige(威信), Aspiration(憧れ), Cutting Edge(最先端), Relevance(ふさわしさ)があるということ。

・そのPrestigeを定める項目はなにかといえば、Timeless Style, Worth the Investiment, Iconic Products, Know-how in craftsmanship, Standard for luxury, Exceptional finish, Well-known people, Really takes care of its clients など。

スパイダーグラフをつくってみると、シャネルは、Exceptional finishという点が少ないようにも見える(この点ではエルメスが突出している)。でもそれは、シャネル側の戦略のせいでもある。シャネルバッグは、実は1つ作るのに18時間かかり、職人ひとりの養成に3年間かかっている。でも、シャネルはそういう現実的な職人技のすばらしさを伝えるよりもむしろ、あえて「夢」を売る戦略をとっている。消費者に、職人技がどうのという現実は宣伝していない。その結果でもある。

・で、次、Aspirationを定める項目はなにかといえば、Very feminine style, Makes me dream, Makes me feel special. など。

ラグジュアリーブランドのなかではディオールがこのAspiration全体において不足している。その結果、全体のイメージが低下している。

・次、Cutting Edge。 これを定める項目は、Daring, fun, in or hot right now, Avant-garde, Really Dynamic, Attract Youg people

ここにおいては、ヴィトンが傑出し、エルメスはやや下の方にくる。エルメスはそのあたりを売りにはしていない(最先端ではなく、タイムレスなスタイルを売りにしている)から、当然。

・次、Relevanceを定める項目はといえば、Fits my lifestyle, Feel close to, I’m crazy about, Truly pleasant shoppping experienceなど。

以上のような細かな各項目にわたり、2007年から2011年までの数値の推移を公表していただいた(社外で見せるのははじめてのこと、でした)。

総合すると、シャネルがトップにきて、エルメス、ヴィトン、プラダ、グッチ、ディオール、クロエ、フェンディ、D&G,セリーヌ、アルマーニ、YSL、Valentinoと続く。ここ数年でプラダが上昇し、ディオールがやや下降気味なのが目立つ。

ぼんやりと語られがちな「ブランドイメージ」だが、こうした言葉と数値できびきびと示されてみると、目からうろこが落ちる思いであった。当然のことながら、「既製服」「ハンドバッグ」「フレグランス」「メイクアップ」においては、使われることばも違ってくる。たとえばフレグランスの場合、イメージ・ディメンションの下には、Prestige, Seduction, Vitality, Relevanceという項目がくるし、メイクアップの場合は、Scienceという項目も入る。シャネルはプレスティージはあるがサイエンスにおいて不足しているので、10年がかりでいまそれを投入しようとしているところ。

[E:eye] 学生からの質問にもユーモラスに答えていただく。

「シャネルは男物を作らないと言っていたのに、香水BLUEも出したし、ネクタイも売っている。これはどういうことか?」

→80万円のシャネルスーツを買った奥さんが、エクスキューズとして、夫にちょっとしたおみやげを買っていくのに、2万円のネクタイはぴったり(笑)。

→Blueのコンセプトは、Unexpected. 「自分がいるべき、と思うところから、全然ちがうところにいる」。っていうわけで、コンセプトにも合う(女物だけやるべき、と思っていたところから、男物までやっちゃっている、というところにいる)。

「コラス社長のネクタイはシャネルだとおっしゃってましたが、スーツはどこのですか?」

→ゼニアの6~7万円のもの。これはコラス氏自身の体の動き(激しくよく動く)にあっているのだそう。ブリオーニの繊細な生地だったらたちまち破れてしまう(笑)。ちなみに靴はベルルッティ。これも軽くて歩きやすく、機能性にすぐれていて20年履いても「古くならない」。

……とまだまだ名残惜しかった充実の100分。楽しくお勉強できました。ありがとうございました!

◇昨日は、OPENERS×GUCCI 90周年のアメブロ・リレーブログに掲載されるための取材を受けた。このテーマを語るための撮影場所として、バー、「ル・パラン」(8月27日付の記事参照)がぴったり、というか、ここしかないだろう、と思って、マスターの本多啓彰さんに相談したら、ご快諾いただき、全面的にご協力いただいた。

映画のセットさながらのインテリア、ゴッドファーザー、グッチ、そしてシャンパーニュ(本多さんがさっと用意してくださった「小道具」。撮影後は私がすべていただきました……)が、ヴィスコンティちっくな(笑)、ゴージャスで艶やかな雰囲気を醸し出してくれた。

バーを撮影の場所として提供してくださったのは、今回が初めてのことだそうで、光栄極まれり。本を書いていてよかった、と心の底から幸福に思えた日でした。たとえ本がたくさん売れなくても(……)、誠意をこめて書けば、こういううれしいつながりが生まれるきっかけになることもあるのですね。本多さん、ありがとうございました。

プロのカメラマンさんが撮った写真は後日の公式アップまでのお楽しみ、であるが、iPhoneで撮ったスナップはFBのほうにアップしました。

◇FBには写真を掲載して、ブログで掲載しないのは、やはり、FBは、「誰がこれを見るのか?」ということが、だいたいわかるから。というか、それこそ見る人の「顔」がわかるから。「パブリックにしてよいプライベート」というか、「パブリックでもありプライベートでもある第三の空間」みたいなFBは、むしろこういう写真を載せていくことで、FBらしい意義(というのもなんだが)が生まれてくることが、うすうすわかりつつある。ま、別に意義などなくてもいいんだけどね。

FBには、だけど、ブログで書くような本や映画の感想、プチ社会問題になっているようなモードニュースはほとんど書かない。何回か試しに投稿してみて、興味を示す人が少ないということがわかったら、なんだか書くのが空しくなった(笑)。そういうのは、ブログの方で思い切り書けばよいという位置づけになってきた。どんどん情報が流れていくFBは、反射的に反応できる記事や写真のほうが似つかわしいようなのである。

ツイッターは、匿名社会がこわいので、今のところ、アカウントはもっていない。

まだまだ人体実験中のところがあるが、FBがあることで、仕事がかなりスムーズになり、思いもしなかった幸運なご縁が生まれて、現実の仕事が格段におもしろくなっていることは確か。でも、当然、メリットがあればデメリットもある。手探りで、自分を実験台にしながら、変化を考察中…というところでしょうか。

突然の土砂降りの中、「サライ」連載記事のため、「カールツァイス」に取材にいく。今年で創業100年を迎える、ドイツの双眼鏡・単眼鏡・ルーペなどの老舗メーカーである。まったく疎い分野であったが、わかりやすく解説していただき、有意義で楽しい取材になった。ツァイス社の方、ご協力ありがとうございました。

Zeiss_2

お話をうかがった部屋に飾ってあった(?)レンズかなにかの設計図。イエナ大学の物理学者が書いたものだそうで、アーティスティックな印象を受けた。

ツァイス社の完成度の高い製品の詳細はさておき。

この分野全体の発展を支えている根強いジャンルが、「ノゾキモノ」と総称される製品であるということを知り、人間の普遍的な願望にまで思いが及ぶ。多くの技術革新の背後には、案外、とても原始的な人間の欲望があるのかもしれない。

◇帝国ホテル広報誌「IMPERIAL」第76号。ロイヤルウェディングの世界について書いています。写真がかなり豪華です。機会がありましたら、ご笑覧ください。

字数の関係もあって誌面では割愛せざるを得なかったケンブリッジ公ウィリアムの新郎姿について、ひとことメモ。

青いサッシュベルトをかけた赤い軍服は、彼が名誉職をつとめるアイリッシュ・ガーズの制服。帽子には、アイリッシュガーズの記章がついているが、そこには連隊のモットー、"Quis separabit?"が記されていた。英訳すると "Who shall separate us?"(だれが私たちを別れさせることなどできようか?) 結婚式にはこれ以上ないくらいぴったりのモットーだった。

家の前周辺の雪かきをしてから、銀座で仕事三件。取材を受ける・取材をする・原稿の打ち合わせ。なぜか銀座には雪の痕跡がない。

取材を受けたのは、英国王室の純愛をめぐるNHKBSの番組を制作するスタッフの方々から。ヴィクトリア女王&アルバート公、エドワード8世(=ウィンザー公)&ウォリス・シンプソンに関する思いを話す。超大好き分野。スタッフの方々がとてもよく勉強していらして、質問が鋭く、自分でも「思ってもいなかった」言葉が出てくることがある。ひとりだけで考えをめぐらしていては到底たどりつけないような予想外の新しい発見が生まれる、というのが対話や取材の醍醐味。

続いて取材、高橋洋服店社長。「サライ」連載記事のため。注文仕立て服、とりわけスリーピーススーツに関するお話をうかがう。詳しくは本誌にて。高橋社長に取材をするのは、「セブンシーズ」「翼の王国」などにつづいて3度目ぐらい。テーマはそれぞれ異なるが。スーツに関しては「知っている」と思いこんでいることが多いだけに、かえって自戒しなくてはいけない。はたして虚心にうかがって、「予想外の」お話がたっぷり引き出せるほどの質問ができたか? 反省しつつ。

別件の原稿打ち合わせを終えて帰宅したらまだ雪がしっかり残っている。

往復の電車の中で読んだのが、加藤和彦の『優雅の条件』(ワニブックスPLUS新書)。没後、一躍メンズファッション誌のスターとなった加藤和彦。かっこいい男を、男たちは生きている間にはなかなかほめないが、没後にほめる。白洲次郎しかり。生きてるうちは、嫉妬が邪魔するのか。没後は生々しさが消えるから美化されるのか。

「優雅、もしくは優雅に見えるというのは生活を楽しんでいる人にだけ与えられる特権みたいなもの」というのが、加藤和彦の優雅の定義。

衣食住・遊び・仕事・空白、すべてを自分の意志でもって楽しむことをすすめる。人生のムダを享受できる人ほど、優雅の条件を持った人、と。

「食事をゆっくりと摂るというのも、ある種のムダである。食事の仕方ほど優雅さが出るものはない。食事が優雅に出来れば、ほとんど人生は優雅になる。それほど毎日の食事などという、日常茶飯が大事なのである。時間や空間、会話や散歩、など目に見えないものにお金やらテマ、ヒマを使えるようになってくると自然と優雅に映るものだ」

昨今主流の効率的生き方のススメとは真逆をいく。自己啓発セミナー系の発想に洗脳されている人々の神経は、逆なでするかもしれない(いや、単にスルーされるだけか)。というか、日本には全般的に、優雅なるものに対して見下す風土が根強くある。軽蔑と冷笑のまじった、「優雅なこった。」というセリフを何度聞いたことか(別にこのセリフを非難しているわけではない。日本では優雅なるものが生きづらい、という意味で)。

主流の風潮に優雅に反逆しているという意味でも、加藤和彦は、やはりダンディの条件を満たしている。

大学のファッション文化史の授業に、ISSEY MIYAKE クリエイティブディレクターの藤原大さんをお招きする。日本発のクリエイションについて、ISSEY MIYAKEのワールドワイドなお仕事の具体例を通じてお話いただく。

藤原さんは、ISSEY MIYAKEブランドのメンズ、レディス双方を手がける。パリコレにも出展し続けているばかりか、世界の様々な分野の方とデザインを通じて交流する超多忙なディレクター。デザインに対する考え方がユニークで、A-POCのデザインにおいて2000年度グッドデザイン賞、2003年度毎日デザイン賞を受賞している。ジャングルにカラーハンティングに出かけたり、ジャパンブルー(日本の藍)を追求するデニムのプロジェクトを行なったり、掃除機のダイソンとコラボレートしたりなど、毎回の意表をつく試みにいつも驚かされていた。

デザインとはなにか、クリエイティブとはどういうことを言うのか、環境とデザインの関係、デザインと社会や文化との関係など、さまざまな刺激がきらきらとちりばめられた、濃い90分を堪能。

A-POC(A Piece Of Cloth=一枚の布&Epoch=時代)は、コンピューターテクノロジーを用いて、一本の糸から一体成型で服をつくり出す製法で、私も何度か展示会で拝見していたのだが、そのデザインの根本にあったのは、「もったいない」という日本独特の発想だった! 服地のムダをいかに省くか? 「もったいない」部分をいかに小さくしていくか? その発想をもとに生まれたのが、あの「画期的な一枚の布」だった。

広い範囲にわたって興味深い視点に目が見開かれた印象だったのだが、すべて書ききろうとすると永遠に終わらないので、とりわけ強く心に刻まれたことをメモ。

・デザインとは、単に表面的に美しいものをつくることではなく、考え方を相手に伝えるものであること。しかも継続して伝え続けるものであること。デザインとはそんなコミュニケーションの手段である。これからは、私たちひとりひとりに、デザイン力が必要になる時代がくる。

・コンセプト、素材、そしてそれらを活かす技術。その三つを結びつけるのがデザイナーの仕事であり、デザイナーの仕事をさらにインパクトのある形で世に問うには、デザイナーの力を超越する異分野の才能の協力や、チームの力も必要。

・立体である人間の服を、平面である型紙におこす。このような服作りの過程に生じる問題を考えるため、デザイン学校の学生に、みかんの皮をむかせてみた。立体をおおっていたみかんの皮が平面になる。それを紙にパターンとしておこし、「みかんの服」を作らせてみるのである。

丸くもとの形に近づけることをはじめから放棄し、四角いみかんを作った学生がいた。また、紙をくしゅくしゅともんで、縮みを入れ、伸縮性をもたせてみかんを作った学生がいた。杓子定規に「もとのみかんに近づける」ことばかりを考えるのではなく、こうした大胆な発想でアプローチしていくこと。それこそが、クリエイティブ、ということ。

・ジャパンブルー、日本の藍色とは、瀬戸内海の中にデニムを沈めていって、海の色と一致したときの色。いわば黒潮の色。

写真は学生からの質問に耳を傾ける藤原さん。

Fujiwara

「たえず実験しながら、利益もとっていかなくてはいけない」。最先端の現場で数字とも闘い続けなくてはならないディレクターの、並みならぬ努力を思わずにはいられない。それを苦にせず、むしろ楽しんでいらっしゃる様子に、エネルギーのおすそ分けをいただいた思いがする。藤原大さん、ありがとうございました!

 

大学のファッション文化史の講義で、靴作り&靴デザインのエキスパートをお招きしてスペシャルトークセッションをおこなう。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」にも出演経験のある、オーダーメード靴界の第一人者、「ギルド」の山口千尋さんと、「JILAレザーグッズデザインアワード」グランプリ受賞の気鋭のデザイナー、串野真也さん。串野さんは京都から。

山口さんは5000年前の靴の話に始まり、革のすぐれた特性、人間の足の構造、靴と足の不思議な関係など、基本的な事柄に見えて案外知らない靴のお話を丁寧に解説。「足の形のまま靴を作ると、実はゆるい」という意外な事実。人間の足には56個もの骨があること。「履くときにはすっと抵抗なく履けなくてはいけないが、いったん履いてしまうと脱げては困る」というパンプスの不思議。「自分に合った一足」を見つけることの大切さを学ぶ。写真はオーダーメイドのブーツを手に講義する山口さん。

Yamaguchi

串野さんは、非日常的なファンタスティックな靴やバッグなどを作り続ける。「ソマルタ」と2010-11秋冬コレクションでコラボレーションして話題になったことも記憶に新しい。伊勢海老にヒントを得た(!)という羊をイメージした靴や、

Kushino_iseebi

「ジンガロ」を見て風のように駆け抜ける馬をイメージしたという、ヒールのない靴(!)や、

Kushinolungtshupta2

ギリシア神話のキメラからインスピレーションを得たという靴の数々は、靴というよりアートピース。作品の実物を手に取りながらのお話は、説得力あり。上の「ヒールのない」靴を、わたくし、実際に履かせていただきました! 土踏まずでしっかりと安定し、ちゃんと歩けることに驚く。

下の写真は、大量生産や模倣は不可能な、世界にたったひとつの靴を作り続けたい、という思いを熱く語る串野さん。

Kushino_3

串野さんの新作、ピーコックにも驚き。テキスタイルデザイナー、今井美沙さんが創る、デザインにあったオリジナルのテキスタイルが使われている。孔雀の羽やヒールにぱっと目を奪われるが、よく見ると、地模様のテキスタイルによって、幻想的な孔雀ワールドがより強化されている。

Kushinopeacock

Peacock2

地に足をつけてしっかりと現実世界を歩くための靴を作る山口さんと、現実を超える夢を見せてくれるシュールで美しい靴を作る串野さん。一見、対極の態度に見えるが、ふたりのお話から、相通じる志の高さを感じとる。大量生産、大量消費に異を唱え、世界にたった一つの、コピーなんてできない(無意味な)オリジナルな靴を極めようとしていること。

現実生活も、追い求める夢も、とりかえのきく大量生産品だったり誰かの安易なコピーだったりしたらつまらないよね、と深く共感。

学生からの質問にも丁寧に答えていただく。左から串野さん、山口さん。

Kushinochihiro

「新しく、誰も見たことのない斬新なものを作るべきクリエイターにとって、歴史を学ぶことはかえって邪魔になるのではないか? 歴史を学ぶことの意義は?」という質問あり。それに対する山口さんの答え―「人間は5000年前から靴を作り続けていて、その5000年の間に、人間が考えうるありとあらゆることはだいたい行われつくしている。その長い年月の最後というか最先端のラインに私たちがいる。歴史を知ってこそ、何が新しくて新しくないのかということもわかる」。

歴史は、不動のものとしてあるのではなく、その「最先端」にいる私たちの見方次第でさまざまな顔を見せてくれる。そんな歴史の面白さも伝えて続けているつもりの講義だったので、現場のクリエイターからの説得力あるお話として感激。

山口千尋さん、串野真也さん、ありがとうございました! 企画実現のために奔走してくれた、元ゼミ生の大橋君にも感謝。

◇「サライ」11月号発売です。連載「紳士のもの選び」で白山眼鏡店のメガネについて書いています。機会がありましたら、ご笑覧ください。

◇次号で扱う、数種類の絵柄トランプたちをひとつひとつチェックする。テーマごとに54枚のカード(ジョーカー含む)に異なる絵がついているというジャンルのトランプ。詳しくは本誌で紹介するが、そのなかのひとつ、「クラシックムービースター」のトランプにあったセリフから。

スペードの4、クローデット・コルベールのポートレイトに「パームビーチ・ストーリー」(1942)のセリフ―’Men don’t get smarter when they grow older.  They just lose their hair.’ (「男は年とともに賢くなるわけではないわ。髪が薄くなるだけよ」)

クローバーの7、ラナ・ターナーのポートレイトに「ペイトンプレイス」(1957)のセリフ―’All men are alike.  The approach is different. the result is always the same.’ 「男はみんな似ているわ。近づき方が違うだけで、結果はいつも同じ」)

CGなどに頼れない、脚本がしっかりと書かれていた時代の映画のセリフはよく練られていて、だからこそ色褪せないなあ、と感じ入る。

◇中国との関係の緊張の高まりが報じられる日々だが、タイミングいいのか悪いのか(たぶん、悪いのだろう)、『着るものがない!』の中国語版が完成したということで、送られてくる。

Photo_3

中国にも読者がいてくださるのは、とても励みになる。ありがたいことである。ただ、『モードの方程式』の中国語版のときには、大陸版、台湾・香港・マカオ版に加え、海賊版?みたいな、こちらが全然知らされていないバージョンまで現れていて、中国の底知れぬ力を感じてひやりとしたこともある。自慢っぽかったら恐縮なのだが、同じ本の中国語版でも、タイトルも表紙イメージもこんなに違うものが出る、という例として、ご一興まで。

Photo_2

とはいえ、「端麗服飾美容」などのファッション誌の仕事や、中国からの留学生たちとの交流を通じて、個人レベルでおつきあいしている中国の人々には、親近感を抱いているし、信頼もしている。国レベルでの外交がぴりぴりしているご時世だからこそ、「たかがファッション」が、国境を越えた友好と共感の媒体として力を発揮してくれることを祈りつつ。

◇昨日、クレアトゥールでヘアエステ中に読んだ新刊雑誌数冊のなかから、一晩眠ってなお脳裏に残っていることばの備忘録。細部の単語は一言一句正確ではないかもしれないが、覚えておきたい、と思わせられたエッセンス2つ。

・山田詠美が塩野七生にはじめて会った時の印象を評して、「塩野七生という王国のあるじのような」。塩野氏のバックグラウンドを知らない人でも、自然とかしずいてしまうような、圧倒的な存在感を讃えた文章のなかで。

・寺島しのぶのインタビュー記事でのことば。「ハッピーな人生ではなく、ドラマティックな人生を送りたい」。痛く共感する。

「サライ」記事のための取材で、白山眼鏡店WALLS@神宮前。あえて経年変化を演出した個性的な店舗に、他の眼鏡店では出会えないオリジナルなメガネフレームが、スタイリッシュに並ぶ。

Photo_3

代表取締役の白山將視さんに、お話をうかがう。筋が一本、太く通った、すばらしい「眼鏡観」にふれて、感銘を受ける。書きたいことは山ほどあるのだが、ここではガマン。詳しくは本誌で。

Photo_5

ジョン・レノンが凶弾に倒れたときにかけていた眼鏡が、ほかならぬこの店の製品だったことも知る。レノンの血も生々しい眼鏡をオノ・ヨーコが撮影していた。

この秋冬は、女性の曲線美がモードなトレンドになる気配である。

その背景を、セレブ事情の変化と、英国政府筋の話と、アメリカの百貨店のプラスサイズ投入と、それに便乗するデザイナー及び下着メーカーの傾向と、過去の曲線美との違いなどなどを織り交ぜ、「ハーパーズバザー」用原稿として書いた。スペースの割に、濃密に情報は盛りました。今月28日発売。

お目に留まることがあれば、ご笑覧ください。

◇日本のファッション誌と中国のファッション誌の提携を仲介するお仕事をなさっている王暁燕さんに、中国の詳しいファッション事情、雑誌事情をうかがう。

Ray, Classy, Vivi, Mina, Glamorous などの提携誌が中国でも売り上げ上位の雑誌に入っている。Rayは100万部近い売り上げを誇るそうである。薄くなる一方の日本のファッション誌とちがい、ブランドの広告がたっぷり入って電話帳のような厚さになっている雑誌も多い。「ハーリー族」という親日の若い人たちが、日本のアニメやファッションに夢中になっていることが背景にあるほか、急激にリッチになった人たちが、ブランド品やエステなどに湯水のようにお金を注ぎ込んでいるという生々しい事情があるようだ。

ブランド店で「ここからこここまで全部ください」という「お大名」な買い方をしたり、野菜を保存するような大きな麻袋に現金を入れて買い物をしたりするという新興リッチ層の話には驚くばかり。

日本で撮影をして100カット以上も撮り、日本のスタッフ(カメラマン、ヘアメイク、スタイリストなど)が「これがベスト!」と選んだ最高のショットを、中国側の編集者はおうおうにしてあまり採用しない、という話も興味深かった。洗練度が高すぎると、中国の消費者は、「自分との距離がありすぎる」と敬遠してしまうのだそうである。プロの目から見たらややランク低めの、手が届きそうな、親しみやすい感じ。これが今の中国では受け入れられるのだと。

西洋人の容姿はかけ離れているけど、日本人は同じアジア人ということで肌や髪の色も近く、身体のバランスも近い。そのこともあって日本のファッション、ヘアメイク情報は、西洋の雑誌情報以上に、熱い模倣の対象になっているらしい。

そんなこんなの興味深い中国のファッション事情を、小人数クラスの学生とともに、興味深くうかがった。重たい雑誌をたくさんもってきて真摯にお話くださった暁燕さん、ほんとうにありがとうございました! 現場に携わる方のお話は、説得力がありました。

写真は暁燕さんにいただいた、上海万博のおみやげ。シルクの巻き物に、書。なにが書いてあるのかわからないのだが(・・・)迫力あるビジュアル。

Photo

◇同じアジアでも、韓国では水光(ムルグァン)メイクというものが流行している、と別の小人数クラスの学生の報告で知る。韓国のほうは、パールの下地を使い、肌はつくりこむけれども、ポイントメンクはティントでごく薄めにするというメイクが流行中で、日本のいわゆる「ナチュラルメイク」よりもかなり薄い印象。

このクラスの、韓国からの留学生は、日本のドラマと韓国のドラマの徹底比較も披露してくれた。韓国ではCMは最初と最後だけ、途中に入ることはないということ。60分ドラマが週二回(!)のペースで続いていき、スケールも大きいこと。戦隊レンジャーものが、韓国には存在しないこと。家族ドラマが多くて老人の俳優の登場場面が多いこと。視聴者の意見が重視され、脇役でも人気が出れば、その人を主役とするようにドラマが変わっていくこともあること、などなど興味は尽きなかった。

学生のリアルなレポートに、学ばせていただくこと大。感謝。

中国のファッション誌、「端麗」で三か月集中連載を始める。私が日本語で書いたエッセイを、先方が中国語訳して、ふさわしい写真を選んでレイアウトしてくれるのだが、あまりの的確な仕事ぶりにささやかに驚いた。コレクションフォトを3枚、ブランドグッズが3点、文意にばっちりとあうよう、贅沢にコーディネイトしてある。中国のファッション力が猛烈な勢いで伸びているのを感じる。

中国語は読めないのだが、訳されてきた文のところどころを見ながら、「ああ、この日本語はこうなるのか」というのがわかって興味深かった。なかでも「エロカジュアル」の中国語には、思わず笑った。

「性感休閑」となるらしい。