トッド・ローズ『ダークホース』(三笠書房)。
型破りなルートで活躍するようになった「普通の人々」をダークホースと位置づけ、その特徴を抽出。ユニークな具体例とともに示される。中でも興味をひかれたのが、全米トップの紳士服テーラー(「タウン&カントリー」選出)、アラン・ルーロー。アメリカの慣習にもイギリスの伝統にもない独特なきわどいテイストの注文紳士服を創る。テーラーの職人修行も積んでないし、ファッション業界にいたわけでもないのに、ボストンで空きビルに部屋をみつけ、まず看板を掲げ、そこから作り方を学び始めた。数年も経たず多くの賞を獲得するまでに。賭けではなく、必然。なぜこんなことが可能だったのか? 詳しくは本書でご確認を。以下はランダムですが、個人的な読書メモ。
・20世紀初頭からの「標準化時代」に対し、現在を「個別化の時代」と位置づけ、他者目線の、正規のコースから外れない「成功」ではなく、個人軸での「充足感を追求することによる成功」を考えよ。従来の「努力を重ねて成功すれば充足感を得られる」ではなく、「充足感の追求が成功を導く」。
・標準化の目標は生産システムの効率化。このために大切なことは、多様性の排除。標準化社会においては、個性はムダ。働き方を標準化し、学び方を標準化し、人間の一生を標準化した。こんな社会に未来はない。
・ダークホース的な考え方において、リスクは「フィット」で決まる。フィットとは個人と機会の多次元的な相互作用。
・独特で細分化された「小さなモチベーション」が多ければ多いほど、特定の機会を選択することによって、あなたの情熱は大きくなり、その結果、選択のリスクは小さくなる。あなたが自分の小さなモチベーションを把握している限り、誰よりも正確に選択のリスクを判断できるようになる。
・自分の小さなモチベーションと目の前の一つの機会とのフィットの度合いを見積もったうえで、重大な選択をするなら、その都度、あなたは自分の目的を確固たるものに作り上げていける。人生の意味と方向性を、自ら決定できるようになる。自分に合う戦略を突き止めたとき、目標を達成することができる。
・ダークホースが自分の選択した道に全力で挑めるのは、それぞれの目的意識が明確だから。曖昧な態度でその場をとりつくろったり、両賭けして失敗の危険を分散させたり、また、自分の進む道を観測気球を上げて様子見するようなつもりで選択したりしない。彼らは決然とした態度で行動に出る。なぜなら、自ら決めた進むべき唯一の道が彼らにはあるからだ。あなたが大胆な行動をとるときは、どのような場合でも、世界に向かってあなた自身がこう宣言するときでなければならない。「これが、私の進む道です」。
・目的地は忘れろ。既存の成功は既製服。標準化されたシステムからは標準化されたものしか生まれない。しかし目標は無視しない。目標は、個性から出現する。能動的な選択から生まれる。対照的に、目的地は自分以外の誰かが考えたもの。目標は、具体的に達成可能なもの。
・勾配上昇法。上達を目指して登ろうとする山の、もっとも険しい急斜面を探す。
・成功という山を踏破するには、自ら作り出した情熱から生まれるエネルギーと、自ら生み出した目的意識から生まれる方向性とが必要であり、湧き起こる充足感に満たされるには、自ら設定した目標を達成して得られる誇りと自尊心と充実感が必要である。
・ダークホース的な発想の4要素を人生に適用したとき、充足感と成功は、あなたが意図的にコントロールできるものになる。もはや運に翻弄される操り人形ではなく、自分の運命を支配する主人になる。自分にとって最も大切なことで上達しようと重点的に取り組むとき、もはや不安げに彷徨うこともなくなり、山腹に道を切り開きつつ上へ上へと昇っていける。本当の自分という明るい光を放つ標識灯に導かれて。
・能力主義は才能の貴族主義、定員主義。富裕層と特権階級が有利な立場に立ち続ける。これからは万人が成功する社会へ。(ここに「新ラグジュアリー」論がフィットする)
品行方正で倫理的な王室メンバーばかりではない。むしろ人間くさくどうしようもなく愚かなところを見せてくれるからこそ、注目を浴び続け、愛されてきたような一面が英国王室にはあります。かつては英語を話せない国王もいたし、ハニートラップとしか思えない状況で国王をやめてしまった王もいた。この程度のスキャンダルは、むしろ「圏内」のように見えます。生涯を国家に捧げると誓ったとてつもなく安定した気質のエリザベス2世の威光と、問題児アンドリュー王子や反乱児ハリー王子夫妻の影。この対極あってこそ歴史家やジャーナリストは筆をふるい、人々の関心をひきつけ、「家族とはなにか」「王室の存在意義は」という議論が盛り上がったりする(関心のない人はとことん無関心だし)。英王室は多民族からなる複合国家の象徴でもあり、複雑化・多様化する社会や家族像の反映にもなってきました。ファミリーの反逆児はどの家庭も抱える問題。それに対して家長がどのように対応するのか、反逆児はその後どうなっていくのか、すべてがリアルな人間的関心の的です。だからこそ、英王室は各時代のクリスマスツリーのてっぺんの飾りのような存在であり続けることができるのです。あとからふりかえって、このファミリーの問題をきっかけに時代を語ることができる。そんな存在、貴重です。
次の国王となる予定のチャールズ皇太子は、故ダイアナ妃をめぐるスキャンダルでいろいろ非難も浴びましたが、いまは地球環境問題において世界でリーダーシップをとる存在です。当初、悪女呼ばわりされたカミラ夫人も、誠実に公務をこなして今では好感度も高く、女王までもが「未来にはカミラにクイーン・コンソート」の称号をと言っている。ひとりひとりの人間の成長はこうやってもたらされ、人の評価というのはこのように変わるのか……ということを考える人類共通のネタ(失礼)をも提供してくれています。