BUNKAMURAで開催される「マリー・クワント」展。展覧会の展示パネルなどの翻訳、およびグラフィック社から発売の図録の翻訳の監修をしました。図録はマニアックで専門的な研究書です。一年がかりの大変な仕事でした。報酬的には信じがたいほど報われない仕事でしたが、マリー・クワントへのご恩返しができたかなとほっとひと段落の充実と達成感を感じた有意義な仕事でした。
図録はアマゾンでは販売していません。限定で増刷もしません。
新国王チャールズIII世のスピーチ。
母の死を悲しみつつ国王としての最初の演説をしなくてはならない複雑な局面でのポケットチーフはこうくるのか。チャールズIII世は今後も世界のスーツスタイルのお手本として君臨されるでしょう。ちなみにトップ写真のチャールズII世は1666年に衣服改革宣言を発し、メンズスーツのシステムを創ったイングランド王です。この宣言によって、上着+シャツ+ベスト+下衣+タイ、というスーツのシステムの基礎が作られます。以後、メンズウェアは細部を改良しながら連続性をたもって変わりつつ、今に至ります。
2000年に出版し、すでに絶版となっている「スーツの神話」の電子書籍版が、「スーツの文化史」です。なんとkindleで0円で読めるよ!!
チャールズIII世は、スーツのかけはぎ、革靴のつぎはぎでも有名。愛着をもって服を長く大切に着るという態度も、時代の要請にかなっているように見えます。
もはや「先細る一方」とされるスーツですが、チャールズ効果で少し上向きになることを願っています。
エリザベスII世からチャールズIII世へと治世が変わり、時代の空気も一気に変わる予感がします。
チャールズIII世は筋金入りのエコビジョナリーです。世間がまだバブルに沸いていたころから有機農業を始め、地球環境を説いていました。現在もこの分野で積極的にリーダーシップをとっています。
チャールズ新国王についても、おびただしい量の記事を書いてきました。いくつかは本サイト「ウェブ記事」でもリンクをはっています。書籍にもまとまっていますので、もしよろしかったらご参考に。(表紙がいまいちなのですが、カバーをとると品の良いネイビーのチェック柄の本が現われます。私はカバーをとって本棚に飾っています。)
昨日はエリザベスII世のファッションについてメディアからの取材をいくつか受けました。NewsPicksではコメントランキング1位……。こんなところで1位というのを狙ったわけでも嬉しいわけでもないのですが、ただ、日本人が英国女王の訃報にこれだけ反応するということにあらためて深い感慨を抱きました。
ファッションもさることながら、私はエリザベスII世を究極の「ラグジュアリーブランド」としてとらえています。そのありかたは、ウォルポール(英国のラグジュアリー統括団体)も「ブリティッシュ・ブランド」の模範としています。ウォルポールによる2022年度のBook of LuxuryにはBe More Queen という記事もあり、最後のまとめとして、エリザベスII世の顔の隣にこんな言葉が書かれています。拙い訳ですが、つけておきます。
Know what you stand for & against.
Know what is authentic, unarguable & unreplaceable about you.
Never be tempted to forget what you stand for, or try to be something you’re not.
Be authentic. Be credible. Be personal. Be adaptable.
あなたが体現することと、相いれないことは何か、自覚せよ。
あなた自身について確かなこと、議論の余地なく取り換えのきかないことは何か、自覚せよ。
あなたが体現することを忘れてはいけないし、自分ではないものになろうとしてもいけない。
本物であれ。信頼に足る人であれ。個性的であれ。柔軟であれ。
メディアの方は、服の色がどうしたとかバッグのブランドがどこかとかスタイリストは誰かとかだけで話を終わらせないで、その先に見える本質として、エリザベスII世のラグジュアリーなありかたの方に焦点を当てた報道をしていただけると嬉しく思います。
*トップ写真は2~3年くらい前に書いた「English Journal」のイギリス文化論特集の1ページ。
JBpress autograph フィンランドのラグジュアリー観、後編が公開されました。「日本人が知らないリアルな『北欧スタイル』から考える新しい『ラグジュアリー』。
こちらでいったんフィンランドシリーズは終了です。ニセコに続き、人々の幸福感に政治が極めて重要な働きをしていることを、ひしひしと感じる取材となりました。機会があればぜひ訪れてみたい国です。
25日発売の週刊文春、森英恵さん追悼記事でコメントさせていただきました。
反骨のエレガンスで時代を切り開いた偉大なデザイナーである、とあらためて思います。
1月にBunkamura で開催される「マリー・クワント展」(V&A巡回展)に合わせ、ジェニー・リスターが編集したこちらの本の日本語版も、グラフィック社から発売されます。
展覧会の解説も兼ねるビジュアル豊富な224ページの大型本ですが、これはもうカタログを超えたアカデミックかつジャーナリスティックな永久保存版。人間マリー&家族とビジネスパートナーのみならず、イギリスの社会と文化、アパレル産業、繊維産業、ブランドビジネス、デザイン、広告、写真、モデル、ヘアメイク、化粧品&香水、インテリア、といった側面から多角的に詳細なマリークワント研究がなされた骨太な一冊でした。日本が果たした大きな役割も明かされる。たったいま、監修作業第一弾を終えました(これから校正が待っている)。翻訳もすばらしく読みやすい。初めて知る内部事情の連続で、もろもろの事象を見る解像度が上がります。
それにしてもマリーがデザイナーとして長命だったのは、とにかくとんでもなく堅実によく働いたからというシンプルな事実に尽きるのですね。シャネルも働きものだった。もう一つの共通点は、人の縁を大切にして、互いに全然違う個性を活かしあっているところ。選択の基準、考え方、行動、アテチュード(社会との向き合い方)において、ファッションに関心ないという方にも多大なインスピレーションを与える女性という点でもシャネルと通じる。
今秋、マリークワントブームが展覧会、映画、本と連動して到来することは何度か書いておりますが、私は展覧会の展示物テキスト監修、映画のパンフエッセイ寄稿に加え、クワント本の監修も担当させていただきます。
幸いにして翻訳者が素晴らしい方ですので、英語と日本語を整合させながら細部の正確さを極めていくのが仕事の一つになりますが、大型ハードカバー、224ページ、各ページに2段に分かれて文字ぎっしりというなかなかの分量です。
イギリスでは2019年にV$Aから展覧会にあわせて発売されていますが、綿密な調査に基づき書かれた内容がすばらしいだけでなく、写真も初登場のものが多く、amazonの評価には74個のレビューがつき欠けるところなき5スターズ。
思わず覚えておきたい名言も多く、たとえばこんな感じとか。
From the grey of post-war Britain, ‘necessity’ wasn’t the mother of invention, fun was.
「戦後英国の薄暗い時代において、発明の母となったのは<必要>ではなく、楽しさだった」
作業中におお!という名言に出会ったらTwitter (kaorimode1)で即時紹介していきますね。
取材予定の方がコロナにかかってキャンセル、とか担当編集者がコロナに、というケースが続くようになりました。みなさまどうかくれぐれもご自愛ください。私は睡眠・運動・バランスよい食事・大量のビタミンC・高麗人参粉末という5大防御(免疫力強化)を意識的に行っています。それでもどこにリスクが潜んでいるかわからないのが怖いところですね。仕事のご迷惑をおかけしないためにも、最大限の緊張感をもって過ごそうと思います。
よい一週間をお過ごしください。
かねてからお伝えしていましたが、今秋、マリー・クワントが襲来します。
まず映画です。『マリー・クワント スウィンギング・ロンドンの伝説』。11月26日よりBunkamura ル・シネマほかで全国公開されます。
同時に、Bunkamura ザ・ミュージアムで、11月26日~2023年1月29日、『マリー・クワント展』が開催されます。V&A発の世界巡回展です。朝日新聞社主催。
さらに同じ時期に、V&Aから出ている『Mary Quant』の翻訳がグラフィック社から出版されます。
私は映画ではパンフレットに寄稿し、展覧会では展示物テキストの監修、翻訳本でも監修をおこないます。実りの秋に向けて佳境に入っているというところです。
周囲の大反対を押し切ってマリー・クワントを卒論で書いたのは40年ほど前。何の損得計算もしなかった(できなかった)ゆえに、その後、重要な場面で干されたり梯子を外されたりというエライ目にも遭いましたが、いろいろあって、こうしてどっぷりと日本でのクワント祭りに関われるのも何かのご縁というものですね。ほんとに何が起きるかわかりません。調子に乗らず、自暴自棄にならず、できることに淡々と取り組むのみです。あとどうなるかを決めるのは天の仕事。