「とやまファン倶楽部世話人」というのを務めていて、年に一回、知事や富山県庁幹部職員を囲み、有識者(私まで入っているのでそう呼んでいいのかどうか?ですが、同じ高校の一学年下に在籍していた映画監督の本木克英さんも世話人のひとり)が意見を交換する会に出席している。今年も今月17日に行われて、新田知事から「ウェルビーイング富山」を実現するためにおこなわれている数々のプロジェクトや成果が報告された。すばらしい実績を上げていると思うし、知事はじめ職員のオープンで積極的にデータを公開し、外部の意見を聞こうとする姿勢はとても好もしいし頼もしい。
一点だけ気になったこと(現場で意見も話したが、さらに時間が経って考えもまとまったので備忘録として)。今年もまた、昨年、一昨年と同様、「25歳から35歳の女性が都市部へ出て行って帰ってこないため、この層の人口が激減している」問題が挙げられていた。
かんじんのこの年代の女性がこうした意見交換の場にいない、ということそのものが問題のようにも感じられたが。すぐに考えられる理由としては、能力が高い女性が多いのに、それを活かして働ける仕事(企業)が富山に少ない。女性は表向きには強いことになっているのだが、いったん結婚すると旧態依然とした「嫁」の役割を暗黙裡に押し付けられ、家事も仕事も育児も介護も全部背負わされることが少なくない。「ムラ」社会が残るので他人への干渉が強め(他村=タムラから嫁に来る、という表現がある)。そもそも高校までは日本一の教育県であるにもかかわらず進学できる大学がないので(富山大学くらい)、18歳で都市部に出たらそのままその地で就職や結婚をしてしまう、というケースも多い。
こうした表向きの理由のほかに、ファッションマーケティングでF1層と位置付けられるこの年代の多くの女性がひそかに感じていることがある。「富山にはおしゃれをして出かけるところがない」。そもそも赤い車に乗っているだけで「派手な人」としてマークされてしまう地味好みの土地なのだ。海外のファッションブランドのショップも皆無に近い。私も実家に帰るときにたまたまプリント柄の服を着ていたりすると、父に「その格好でコンビニに行くな。噂が立つ」とたしなめられる(笑)。
逆にそういう堅実で地味な土地柄が、地に足の着いた堅実な人を育てているのだろう。そういうところは私も好きなところだ。ただ、メリットとは別に、やはりちょっとでも目立つ服装や持ち物が人格否定(少なくとも全肯定ではない)につながるという土地柄では、ファッションで冒険もしてみたいし、休日にはホテルのランチやアフタヌーンティーくらい楽しみたい(そんな素敵なホテルはない)、という25歳から35歳の女性が「どよん」と感じて住むことを敬遠したくなるのは無理からぬことだ。
会ではそんなこともちらっと話したのだが、終了後、何名かの職員の方から「私の知り合いの女性も同じことを語ってました」と言っていたので、私一人の感覚でもないと思われる。
知事は「若い時は青い鳥を探して都会に出ていく」という解釈をされたようだった。そういう見方もできますね。きらきらしたことにはすっかり興味をなくした晩年には「家が広く水もご飯もおいしく住みやすい」富山に帰ってくるという女性も多いので。
地方が都会と同じようにファッショナブルになれとはまったく思わない。地方には地方のよさがある。富山にも実はディオールはじめハイブランドで修業したオートクチュールデザイナーが移住していたり、パリコレに出ているメンズモデルがいたり、レアなシルク素材を作る伝統企業があったり、ゴールドウィンみたいな先端素材を作る企業があったりする。グローバル化されすぎた都市部ではできない最先端の「ラグジュアリー」を作り、発信できる素材と人材と企業が点在しているのだ。突出したブランディングを望むなら、「すし」「水」「立山」もいいけどそれだけでは限界がある。「レヴォ」などのデスティネーションレストランや日本酒の満寿泉、IWAとも連携し、ローカルに根付いた新しい価値を生み出せる可能性を育てていけたらよいのだが。それこそ富山が提唱できる新しいウェルビーイングの延長に。その波及効果が富山のブランド価値を上げ、ひいては、住んでいる人の誇りの源にもなり、新しい事業を生み出す契機にもなるのではないか。
その後の会でいただいた名刺にあまりにも「すし」「すし」「すしのとやま」しか書かれていないので、ちょっといつもの抵抗衝動が芽生えた次第でした。
余談ですが、私は子供のころ、裁縫をしていた母が縫った服を着ており、編み物の先生もしていた叔母の編んだニットを着ていました。生地は大人の服の余り布を活用、毛糸はサイズが小さくなったニットの糸をほぐし、編みなおしたりもしていました。だからいつも身体にピタッとあっていた。今から思えば究極のサステナブル・オートクチュールでした。
(写真は新湊大橋と立山と海王丸の三点セット。私が撮影しました)