「あいちテキスタイルフェス2026」では、尾州ウールをどのように世界に認知させていくべきか?という課題をいただきました。チャールズ国王のCampaign for Woolのことを連想しました。以下、概要を記します。
チャールズ国王は2008年から一貫して、羊毛産業のパトロンであり続けています。
チャールズ国王がウールに本格的にコミットしたのは、まだプリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)だった2008年のことでした。自らの農場を含む生産現場で羊毛価格が低迷し、農家の暮らしが圧迫されている現実を前に、彼は、「Campaign for Wool」という国際的なイニシアティブを立ち上げます。2010年に正式ローンチされたこのキャンペーンは、合成繊維の氾濫に押されつつあったウールの価値を、ファッション、インテリア、建築といった広い分野で再発見させることを目的としています。チャールズはここで「後援者」という立場を超え、自ら旗を振る仕掛け人として動き始めました。
以来、「Campaign for Wool」のパトロンとしての役割は、国王即位後も揺らいでいません。たんに名前を貸すのではなく、各国のWool WeekやWool Monthといったイベントの象徴的存在として前面に立ち、英国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど羊毛生産国を訪ね歩いてきました。そこで語られるのは、ウールが「天然で、再生可能で、生分解性を持つ素材」であるという、環境時代にふさわしいメッセージです。若い頃からプラスチック汚染に懸念を示してきた彼にとって、ウールはノスタルジーではなく、未来に対する具体的な解答のひとつなのです。
チャールズの支援は、スローガンだけにとどまりません。たとえば「Campaign for Wool」10周年には、英国、オーストラリア、南アフリカ、ニュージーランドというキャンペーンゆかりの四カ国の羊毛をブレンドした記念スカーフのプロジェクトを構想しました。収益は「The Prince’s Foundation Future Textiles」や、スコットランドの老舗メーカーであるJohnstons of Elginのアプレンティス制度を支えるために用いられています。ここでは、羊毛という素材を軸に、生産者から職人教育、次世代のテキスタイル産業の担い手育成まで、一本の線で結ぶ視点が見て取れます。
イメージづくりという点でも、ウールは巧みに用いられています。戴冠を祝うロンドンのサヴィル・ロウでは、AW Hainsworthのウール生地とBritish Wool 100%のロープで仕立てたバンティング(旗飾り)が街路を彩り、国王の即位とウール産業の再評価が視覚的に結び合わされました。式典という「晴れの舞台」にウールを登場させることで、伝統的テーラリングの聖地サヴィル・ロウと、英国の牧羊文化とが同じストーリーのなかに収められていったのです。
さらに象徴的なのは、王室自身がウールの「ローカル循環モデル」を実践している点でしょう。サンドリンガムの王室農場では数千頭規模の羊が飼育され、その羊毛から、上質なウールブランケットが製品化されています。原料となる羊、紡績と織り、そして製品としてのブランケットが、王室所有地という一つの世界のなかで完結する。その様は、教科書的なサステナビリティの図式を、実物として示してみせる試みにも見えます。
チャールズは日本でもウールの魅力を語っています。2019年の来日時には、寝具などを例に挙げながら、ウールの調温性や快適性をわかりやすく紹介し、化学繊維全盛のマーケットに向けて、羊毛という古くて新しい素材の可能性を訴えました。ここでも、テーマは一貫して「よく眠れる」「心地よい」という身体感覚レベルの説得と、「環境にやさしい」という倫理的選択の両立です。
こうして見ていくと、チャールズ国王のウール産業支援は、一つの思想から枝分かれした体系のように感じられます。「Campaign for Wool」という旗印を掲げ、生産者と消費者を結び、教育と職人の未来へ資金を回し、王室自身のライフスタイルや公的儀礼の場面でウールを選び取る。そのすべてが、「自然素材を尊重し、地域の産業を支え、次の世代へ技と環境を渡す」という、シンプルでありながら現代的なストーリーに収斂していくのがみごとです。
こうした国王の活動から、尾州ウールのキャンペーンに何らかのヒントが得られないでしょうか?
(トップ写真は、近所に咲いていた桜。)





































































































































































































































































































































































































































































































































































































































