「そう考えることが、美しい」と思われることの、「ほんまかいな」
田辺聖子『欲しがりません勝つまでは』(ポプラ文庫)。1977年に刊行されたものが、2009年にポプラ文庫になった版。第二世界大戦の前夜からその最中、終りまでを、…
「骨惜しみだけが人生の空費となる」
◇浅田次郎『すべての人生について』(幻冬舎文庫)。小松左京、津本陽、北方謙三、渡辺惇一、岩井志麻子、宮部みゆき、山本一力ら14人の大物さんたちとの対談集。浅田次郎のエッセイによくでてくるネタがかぶっていたところもあったが、相当の準備をして対談に臨んだことがうかがわれる。一切の手抜きをしないプロフェッショナリズムに、あらためて感心。
それぞれ面白いのだけど、とりわけインパクトがあったのが、山本一力との対談。ふたりとも大借金王で、人生の浮沈をいやというほど経験しているだけあって、笑って紹介されるエピソードにもフィクション顔負けの凄みがあった。
なかでも、「仕事をする」ということに関して光っていたことば。吉川栄治文学賞の受賞パーティーでの話。同時受賞者が北海道で僻地医療に42年間専心してきた老齢のお医者様だったそうなのだが、その方はパーティー半ばで浅田氏に近づき、「これで失礼します。患者が待っていますから」と言って会場を出て行ったとのこと。
浅田「それだけのことなんだが、鮮烈でしたね。胸が震えました。仕事をしている人は誰でも公器、公の存在なのだとつくづく思ったのです。仕事をする限り、誰かと関わっているんだ。私が書いたものも一人でも二人でも楽しんでくれて、なかにはその人生や生き方に影響を及ぼすかもしれない。そのことをいつも頭に入れて、あの人が『患者が待っている』とさり気なく言われたように、私も『読者が待っている』とごく普通に言えるようにならなければならないと、褌を締め直す気持ちになりました」。
あとがきも、読ませる。
「世の中何だってそうだが、無駄な努力というものはない。骨惜しみだけが人生の空費となる」。
共感。高校生向けの講演などでも言っているが、真剣にとりくめば、無駄なことなどひとつもない、と思う。必ずあとで(何年先になるかわからないが)その果実がかえってくる。これやっても時間のムダ、と思って手抜きしたりこっそり内職したりすることこそが、最大の空費になる。
◇朝日新聞28日付オピニオン欄、高橋源一郎「身の丈超えぬ発言に希望」。昨日の斎藤氏の提言をさらに深めるような議論に加えて、城南信用金庫の理事長による「脱原発宣言」が紹介されていた。
「そこで目指されているのは、すっかり政治問題と化してしまった『原発』を、『ふつうの』人びとの手に取りもどすことだ。『安心できる地域社会』を作るために、『理想があり哲学がある企業』として、『できることから、地道にやっていく』という彼らのことばに、難しいところは一つもないし、目新しいことが語られているわけでもない。わたしは、『国策は歪められたものだった』という理事長の一言に、このメッセージの真骨頂があると感じた。『原発』のような『政治』的問題は、遠くで、誰かが決定するもの。わたしたちは、そう思いこみ、考えまいとしてきた。だが、そんな問題こそ、わたしたち自身が責任を持って関与するしかない、という発言を一企業が、その『身の丈』を超えずに、してみせること。そこに、わたしは『新しい公共性』への道を見たいと思った」。
力強いことばに導かれて、城南信用金庫理事長のメッセージを聞く。迷いなく、まっすぐな視線とともに発せられることばに、背骨がのびる思い。こんな素敵な経営者がいたのだ。
http://www.youtube.com/watch?v=CeUoVA1Cn-A
国策は歪められたものだった。影響力のある?タレントやブンカジンはカネ持ち企業の操り人形だった。そんなこんなの背景があばかれた今、理想や哲学をもつ企業や個人が、国や「エラい人」に問題を丸投げせず、身の丈に応じて発言し、地道に行動していく態度を表明することが、地に足のついた「希望」を感じさせてくれる。
「勇気の伝染」
◇「25ans」6月号発売です。ロイヤル婚特集にて、歴代の英王室のロイヤルウーマン5人分のラブストーリーと総論、「スローニー」ファッション特集にて扉の解説コラムを書い…
「芸能を通じた心のインフラ確保」
朝日新聞23日(土)朝刊、オピニオン欄。「いまこそ歌舞音曲」。悲嘆、自粛ムードが世を覆い、復興に向けて具体的に建設的に貢献しなくてはいけないというプレッシャーが…
「打たれても打たれても舞台に立ち続けること」
野地秩嘉『一流たちの修業時代』(光文社新書)。会社創業者、アーティスト、職人、営業マンなど、15人の一流の人たちが登場。今は輝かしい成功者として名高い彼らが、「…
ヒーローとは、窮地にはまり込むことが多い人間
◇「サライ」記事のため、銀座の「トラヤ帽子店」に取材にうかがう。店長の大滝雄二朗さんがボキャブラリー豊かで、帽子かぶれば渋チャーミング、という素敵な方であった。…
真の強さを引き出す、「あなたなしでは生きてゆけない」
「ワンピース ストロング・ワーズ」上・下巻(集英社新書 ヴィジュアル版)。ワンピースの「名言集」。力強い言葉は、今だからこそ響くものもあり、読みながら思わず手に力が入るほど。
「普通じゃねェ”鷹の目”(あいつ)に勝つためには 普通でいるわけには いかねェんだ!!!」
「災難ってモンは たたみかけるのが世の常だ 言い訳したらどなたか 助けてくれんのか? 死んだらおれはただ そこまでの男……!!!」
各巻の後につく内田樹先生の解説がまたすばらしい。内田先生はいろんな本や論壇誌でたぶん同じことを繰り返して語っているのだけれど、ここにもその繰り返されてきた言葉があり、その言葉はなんど読んでも読み飽きることがない(今のところは)。
「いわば、ルフィは『「ONE…
オリジナルの風格までは、マネできない。
◇DVDで「死刑台のエレベーター」。ルイ・マルのオリジナル版のしっとりノワールな雰囲気には遠く及ばなかったが、ハラハラ感はそれなりに楽しむ。
ストーリーはリメイクすることができても、雰囲気をリメイクすることは難しい、とあらためて感じる。洋服やバッグのコピーにおいて、カタチだけなぞることはできても、「本物」が漂わせる風格までは決して再現できないのと、ちょっと似ている。そっくりであればあるほど、本物の格が上がっていく。「コピー歓迎」と言っていたココ・シャネルは、正しかった。
◇DVDで「悪人」。原作の哀感、複雑な人間像をみごとに視覚化。俳優陣がそろって力強くすばらしい。クライマックスにおいて、被害者の父、加害者の祖母、逃亡する二人のカットをそれぞれ短くつないで感情をぎゅーと盛り上げていく手法も絶妙で、世間の高評価にも納得。
「遠距離恋愛」を観たときに、「遠距離恋愛中に、会いたいときに会えないことの地獄の苦しみ」が吐露されていて、その苦しみと、まったく一人であることの平穏と、どっちがマシなのだろう?とつらつらと思っていた。
「死刑台のエレベーター」を観た時にも、「愛のために殺人に走る甘美な地獄」と、愛がないゆえの平穏と、どっちがマシか?と思わされた。
「悪人」のヒロインは、閉塞しきった日常の平穏な砂漠よりも、「愛のために危険な逃亡をする地獄」を選んだ。「愛」が幻想だったかもしれないとしても、たぶん、そっちのほうが「生きている」実感は大きいのだろう。
愛のための地獄>愛のない平穏。すくなくとも虚構の世界においては、そうじゃないとドラマにならない、ということはあるが。
…
重苦しい現実と、美しい虚飾の世界の間で
◇「メンズプレシャス」2011 spring号発売です。特集「奥深き"御用達"名品の真実」において、扉の記事と英国王室御用達についてのエッセイ、2本を書いています。機会が…
よく訓練された子供たちはいるのに
◇日々少しずつ数字が加算されていく死亡者数。日々状況が悪化する原発。ついに東電は低濃度の(っていう表現もごまかされているようで気持ち悪い)汚染水を意図的に海へ流し始めた。高濃度の汚染水の流出も止められないまま。茨城ではコウナゴ汚染。
シャングリラホテルの休業。外国船の日本への寄港忌避。農業と漁業への長期的なダメージ。
じりじり、じりじり、と事態が悪化していくことに対し、不思議なことに、最近は、当初のような不安を覚えない。長期間こういうのが続いて、心身が<日々、悪いことが加速していくこと>に慣れてしまったようなのだ。それとも感覚がマヒしたのだろうか。「関心がなくなった」とか「ニュースに飽きた」ということとは違う。「冷静になった」「楽観するようになった」というのとはもっと違う。毎朝NYタイムズやウォールストリートジャーナルの記事と日本政府の発表を読み比べては、腹を立てたり疑問を抱いたり、<気にしすぎない努力>をしたりしている。ただただ、身体が「不安に慣れた」としか思えない状態。
大戦中、空爆の恐怖をどのように人々はしのいだのか、と常々不思議に思っていたが、ここにも「不安や恐怖に対する、慣れ」のようなものが、ひょっとしたら生まれていたのだろうか? 憶測にすぎないが、ある程度の慣れによって、極度のストレスから心身が守られるということもあるのではないか、と感じる。
あるいは、来るかもしれないより大きな恐怖に備えて、心身が自発的にエネルギーを消耗させないようにしているのだろうか? との思いもよぎる。
◇大学の同僚、森川嘉一郎先生のツイートより。あまりにすばらしいので引用させていただく。
「今回の地震対応に対する海外の報道を見ると、日本という「国家」には、よく訓練された子供達(国民)がいる一方、責任を担う大人達がいないという、既成の日本観をさらに戯画化したようなイメージが醸成されつつある。他方でそうした自国の戯画を笑えるかどうかが、文化的成熟の一つの指標でもあるが」。
さすがの洞察。…
「こんど食事でも」「いつにする?」「1000年後」「急だな」
◇「メンズファッションの教科書シリーズ vol.7 The Coordinate」(学研)、発売です。本書の中で、小さなコラムですが、スティーブ・マックイーンのスリーピース・スーツの…
「作戦ではなく、祈り」
絶望に近い状況をなんとか「なだめる」べく、必死に放水をしつづけるというアナログな作業を、NYタイムズの記者は「作戦(plan)などではなく、祈り(pray)である」と表現していた…
被災地の「平等」、平穏地の早い者勝ち
買い置きをなにもしなかった。食糧・生活に必要な備品・仕事に必要なA4の紙、すべて入手がままならない。ガソリンも尽きたので外食にも遠方への買い出しにも行けない。
被災…
「Operation Tomodachi」
ガソリン売り切れ、映画館休館、イベント中止、一部の棚が空っぽになったスーパーマーケットも早めの閉店、となにか「映画で見たような戦争中」のような空気を感じた日曜だったが、朝起きて、知人から「拡散希望」として回ってきたメールに心が洗われるような思いをした。アメリカ大統領が、日本へ救援に向かう兵士に向けて語った演説の要約とのことだった。
☆☆
おはよう、諸君。…
感情は、伝播する
「激甚災害」という指定基準があったこともはじめて知ったが、人が想像しうる「激甚」の基準をはるかに超えている。
被災された方々の苦しみや悲しみをいくら思ってもその…
非常時の善意に、感謝。
家で仕事中だった。ゆら~ゆら~と揺れ始め、やがて部屋全体が平行四辺形になって揺れてこれは危ないと思って外へ出たら、足元が定まらず、電信柱もぐるりぐるりといった感…
ムーア現象&「お元気ですか」のNG
とりたてて話題にすべきほどでもないんだけど、ちょっとひっかかった言葉のメモ。。
◇その1 「ムーア現象」。
クレアトゥールでヘアエステ中に流れていたDVDのなかに、'Flirting…
きれいごとの羅列は、人を退屈させる
◇「英国王のスピーチ」観る。予想していたよりも堅実で抑制のある印象。英国史では、エドワード8世&ウォリス・シンプソンをめぐる一連のスキャンダルが脚光をあびがちだ…
ガリアーノからの「ラブレター」
◇ロイヤルウェディングにタイミングを合わせ、4月末発売の「25ans」でロイヤル婚大特集が組まれるとのこと。歴史上の英王室のドラマティックカップル4組分+総論を寄稿する…
モードのサイクルは、天才を自己破滅行動に追い込む?
◇やはりガリアーノの解雇は免れなかったようだ。先週木曜の暴言事件(2月25日の記事を参照してください)につづき、新たなスキャンダルが飛び出し、これが解雇の決定的要因となった。
昨年12月にパリのバーにて携帯で撮影されたという動画が、ネット上に投稿された。日本から動画で見ると、問題部分はビープ音がかかっているが、英「インデペンデント」3月1日付の記事は、そこで交わされた会話の問題部分を掲載している。酔っぱらったガリアーノはこんなことを言ったとのこと。
Galliano:…